スタンフォード大学のフランシス・フクヤマが、世界のポピュリズムの最大の原因はインターネットにあるとの結論に達したと2025年10月3日付Persuasionで述べている。
2016年の英国の欧州連合(EU)離脱やトランプの大統領当選以来、多くの学者や評論家がポピュリズムの台頭を説明しようとしてきたが、大方の者がその原因として挙げたのは次の9つだった。
①グローバリゼーションとネオリベラル政策がもたらした経済格差、②社会の主流を外れた人々による人種差別や排外主義、宗教的偏執、③教育や居住地域等による社会の分断、④トランプ等の特別な煽動能力、⑤既成政党の失敗(雇用、社会保障等)、⑥進歩的左派への反発、⑦進歩的左派の指導力の失敗、⑧人間の本能(暴力や敵意、排外の性癖)、⑨SNS とインターネットである。
私は、当初から、原因⑨(インターネット等)を一つの原因と指摘してきたが、その後10年近く考え続けた結果、技術の変化、特にインターネットこそが何故この時代に、この形でポピュリズムが起きたのかを最もよく説明するとの結論に至った。
インターネットは従来のメディアにとって代わり、これにより情報の質を確保するためのフィルターの全てがなくなった。そして、それは全ての制度、機関への信頼を失わせた。インターネットは、情報の仲介者(新聞、出版社、テレビ局など)を排除し、誰もが発信者になれる世界を作った。
かつては一定の「事実確認」や編集基準があったが、それがなくなり、「いいね」や「シェア」の数が真実性の代わりとなった。大手プラットフォームは、商業的利益のために煽情的で、対立を煽る内容を優先し、アルゴリズムは利用者の興味を最大化する方向に働く。
さらに、情報は瞬時に拡大する。ルネ・ディレスタがその著作『ネット世論の見えない支配者(Invisibl Rulers)』で書くように、オンラインでは極端な見方や素材が拡大する。インターネット世界の通貨(カレンシー)は、アテンション(注目)であり、冷静、熟慮、知識や正義では注目されない。
良い例が、ロバート・ケネディの厚生長官任命で、誤った情報で反ワクチン運動を広め、多くの親が子どもに予防接種を受けさせなくなった。この運動は保守思想とは無関係で、むしろインターネットで拡散されたものだ。
アルゴリズムは文脈を理解せず、「注目を集める」ことだけを最適化する。さらに、ビデオ・ゲーム文化も政治過激化に影響している。
