2025年12月6日(土)

BBC News

2025年12月1日

ケリー・アン

中国・上海でこのところ、日本の音楽に関するいくつかのイベントが突然キャンセルされた。そのうち一つは、曲の途中で中断されるという事態だった。多くのファンはこれを批判。「無礼」で「極端」だと言う人もいる。

11月28日には、歌手の大槻マキさんが人気アニメ「ONE PIECE(ワンピース)」の主題歌を歌っていたときに、照明と音楽が消えた。大槻さんはその後、スタッフ2人によってステージから急いで降ろされた。

29日にも、ポップスターの浜崎あゆみさんのコンサートが、「不可抗力」を理由に主催者によって中止された。浜崎さんは、1万4000人収容のスタジアムが空席の状態で公演を実施した。

一連のキャンセルの背景には、高市早苗首相の「台湾有事」に関する発言をめぐる、中国と日本の外交的緊張の高まりがある。

高市氏は11月、中国が台湾を攻撃した場合、日本は自衛隊が出動する可能性があると示唆した。同氏は、中国および中国のアジアでの活動を声高に批判してきたことで知られる。

中国は、自治政府をもつ台湾を、中国の領土の一部とみなしている。「統一」のためには武力を使うことも否定していない。

高市氏の発言後、両国は互いに抗議を続けている。深まる溝は、両国での日常生活にも影響が及んでいる。

大槻さんのマネージメント事務所は、28日の公演中止は「やむを得ない諸事情」によるものだとしている

事務所は1日、新しく声明を発表し、「公演中止になった事以外は特に問題もなく、現地のスタッフの方々にも優しくご対応頂いておりました」と説明した。また、この件で取材は受けないとした。

中国のSNSでも批判の声

共同通信によると、大槻さんの公演は、上海で3日間にわたり開かれた音楽フェスティバルの一部だった。その後のイベントも、さまざまな要因を総合的に勘案した結果、中止されたという。

BBCは、このフェスティバルの主催者の一つとなっている日本のエンターテインメント企業「バンダイナムコ」に連絡を取っている。

大槻さんのファンの一部は、彼女の公演中断を、中国の胡錦濤・前国家主席が2022年10月に共産党の会議で途中退席させられた衝撃的な出来事になぞらえ、ミーム(インターネットで拡散される画像や動画など)を作成した。このミームは週末にソーシャルメディアで広がり、大槻さんが「胡錦濤待遇」を受けたとのコメントもみられた。

ソーシャルメディアでは、中国当局が日本を制裁しようとして、自国民の文化を楽しむ自由を奪っているとの非難も出た。Xの投稿には、「自国民に矛先を向けることに何の意味があるのか」と日本語で書かれたものもあった。

中国版のXといえる「微博(ウェイボー)」には、「観客のことは気にしないのか。全員中国人だろうが」という書き込みもあった。

アメリカのジョージ・グラス駐日大使も、オンラインでこの話題に参加。「音楽の力を感じることができない人々がいるのは、本当に残念なことだ」とXに書き込んだ。投稿には、米ロックバンドのジャーニーの「ドント・ストップ・ビリーヴィン」へのリンクを張った。

さらに、「マキさん、ドント・ストップ・ビリーヴィン(信じることをやめないで)――信念を持ち続けて!」と書いた。

今回の出来事は、中国のソーシャルメディアでもナショナリスト的な感情をあおっている。外交的に対立している状況で、そもそもなぜこのイベントが許可されたのかと問う声も出ている。

微博ではユーザーが、「全国民が日本に対して怒っている時に、どうしてこのイベントが行われたのか?」と書いた。

アジアツアーの一環として上海を訪れていた浜崎さんは、28日に突然、コンサートのキャンセルを求められたという。

それでも浜崎さんは、1万4000席の空席を前に公演を行った。インスタグラムには、「このツアーを共に戦い抜いてきた一座の皆と、中国スタッフの皆と、そして日本の大家族」への感謝の気持ちを込めたと投稿。

「エンターテイメントは人と人をつなぐ架け橋であるべきで、自分はその架け橋を作る側でありたいと、今も強く信じています」とも書いた。

中国国営メディアは2週間前、今回の外交問題が続く中で、日本の人気アニメ映画少なくとも2作品の公開が延期されると伝えた

(英語記事 Japanese 'One Piece' singer stopped mid-show after China-Japan feud

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c9vjywpgenxo


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