2025年12月9日(火)

BBC News

2025年12月9日

タイとカンボジアの双方で、数万人の住民が避難している。写真はカンボジアの国境付近のシエムリアップで自宅から逃げてきた家族たち

タイとカンボジア両軍は9日、係争中の国境付近で衝突を続けた。タイ空軍はこの日、再び空爆を実施したと発表したが、作戦の詳細については明らかにしていない。

カンボジア政府によると、7日に始まった衝突により、これまでに少なくとも民間人7人が死亡し、約20人が負傷した。一方、タイ側では兵士3人の死亡が確認された。うち1人は、グレネードランチャーによって殺害されたという。

両国は、相手が軍事施設ではない民間地域を砲撃したと互いを非難している。

両国で数万人が避難を求められている。

今回の衝突は、両国が今年7月に停戦に合意して以来、最も深刻なもの。前回の停戦を仲介したドナルド・トランプ米大統領は9日、両国に約束を「完全に守る」よう呼びかけた。

匿名を条件にロイター通信に取材に応じたアメリカの当局者は9日、「トランプ大統領は戦闘停止の継続のために尽力しており、カンボジアとタイ両政府がこの紛争を終わらせるための約束を完全に守ることを期待している」と語った。

タイのシーハサック・プアンゲートゲーオ外相はBBCに対し、カンボジアが合意を破ったと非難し、タイとカンボジアの停戦は「機能していない」と述べた。また、アメリカが引き続き関与するのなら、「単なる紙切れではなく、真の平和」を求めるため、タイには支援が必要だと語った。

シーハサック外相は、カンボジアが行動を改めない限り、外交の余地はほとんどないと主張。「ボールはカンボジア側にある。歩み寄り、説明責任を果たし、責任を取ることだ。そうすれば、次の段階に進める」と述べた。

互いに民間地域を攻撃したと非難

両国は、相手が攻撃を始めたと互いを非難している。タイ側は、7日にカンボジアがタイのウボンラーチャターニー県に攻撃したため、翌8日に空爆を含む反撃を行ったと主張している。一方、カンボジア側は、同国国境沿いのプリアヴィヒア州で、タイ軍が攻撃したのがきっかけだと述べている。

衝突は、8日夜から9日未明にかけても続いた。

カンボジア国防省によると、タイ軍は9日午前0時過ぎにカンボジアのバンテイミアンチェイ州の国境地域を砲撃。国道を移動中の民間人2人が死亡した。カンボジアのネット・ペアクトラ情報相はまた、AFP通信に対し、8日にプリアヴィヒア州とオッドーミアンチェイ州で、タイの砲撃によって同国の民間人4人が死亡したと話した。

カンボジアで大きな影響力を持つ有力者のフン・セン前首相はフェイスブックに、同国軍が「昨夜と今朝」にタイによる攻撃に反撃したと投稿。カンボジアは停戦を尊重するために「24時間以上、辛抱してきた」と主張した。

「我々の部隊は、敵が攻撃したすべての地点で戦わなければならない」とも、フン・セン氏は述べた。

タイ軍は、カンボジアがタイ兵に対して多連装ロケットシステム、爆弾投下型ドローン、そして自爆型ドローンを使用したと非難。一部のロケット弾は、民間地域に着弾したと報じられている。

同軍の第2軍管区作戦センターが9日朝に発表した最新報告では、タイ国内の国境沿い4県に、492カ所の仮設シェルターが設置されており、12万5838人が避難している。

また国民に対し、「前線の要員を守り、作戦の有効性を維持するため」、部隊の動きや軍事作戦に関する写真、動画、情報の共有を控えるよう求めている。

タイ国防省は、同国の軍事行動が国際人道法に従っており、民間人の保護を最優先としていると強調。同省報道官は9日、「これは、民間人の生命や財産に被害を与えているカンボジア軍の兵器使用とは著しく対照的だ」と述べた。

タイ陸軍はまた、カンボジアとの国境に近いサケーオ県で、カンボジアの砲撃によって生じた被害だとする写真を公開した。

タイとカンボジアの係争は100年以上前、フランスによるカンボジアの植民地支配後に、両国の国境が画定された時期にさかのぼる。

両国の関係が正式に敵対的になったのは2008年で、カンボジアが係争地にある11世紀の寺院を、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録しようとしたことが発端だった。この動きに対し、タイ側は激しく抗議した。

それ以来、両国の間では断続的に衝突が発生し、兵士や民間人に死傷者が出ている。

今年7月には、衝突が5日間の戦争に発展。この時は少なくとも48人が死亡し、推定30万人が避難したことが明らかになっている。

その後、トランプ氏が両国に対し、アメリカとの貿易交渉の前提条件として停戦に合意するよう求めたことで、双方が合意に至った。協議はマレーシアが仲介した。

双方に動機があると専門家

タイのチュラロンコン大学で国際関係論を教えるティティナン・ポンスディラク教授は、最近のタイ・カンボジア国境での衝突が、両国を「暴力の悪循環とエスカレーション」に引き戻していると述べた。

また、国家主義的な感情が紛争をあおっている可能性が高いとも指摘した。

「両政府は、それぞれ国内問題を抱えているため、この軍事行動を進める動機と既得権益がある」と、ティティナン氏はBBCニュースデイに語った。

「カンボジアは、地域の詐欺ネットワークの中心になっていると明らかになっており、説明すべきことが多い」

「一方でタイにも多くの問題がある。アヌティン・チャーンウィラクン首相は少数派政権を率いていて、立場が弱く、南部での洪水対応を誤ったばかりだ」

タイでは来年初めに選挙が予定されていることから、アヌティン首相が国家主義的な熱狂を利用して選挙を乗り切り、「再び首相の座を得ようとしている可能性が高い」と、ティティナン氏は示唆した。

(英語記事 Thailand-Cambodia fighting spreads along border as death toll rises)

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cn81324zy7yo


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