2025年12月9日(火)

BBC News

2025年12月9日

アメリカ産大豆の最大の輸出先は中国だ。画像はイリノイ州の大豆農家(10月)

バーント・デブスマン・ジュニア記者(米ホワイトハウス)、ダニエル・ケイ・ビジネス記者

アメリカのドナルド・トランプ大統領は8日、作物価格の低迷や、米政権の継続的な貿易戦争の影響を受けた農家を支援するため、120億ドル(約1兆円9000億円)規模の農業支援策を発表した。

資金の大部分(110億ドル相当)は、農務省の「農家橋渡し支援プログラム」の一環として、畑作農家への一時金に充てられる。残りの10億ドルは、同プログラムの対象に含まれない作物に割り当てられる。

農家はおおむねトランプ氏の支持層だが、第2次政権下では、特に中国との貿易摩擦によって、農業部門は混乱に陥っている。

トランプ氏はこの日、アメリカの農家への水の供給をめぐる対立で、メキシコに5%の追加関税を課すとも警告した。

ホワイトハウスは今回の支援策について、「長年の不当な貿易措置」や、累積したインフレに苦しむ農家を助けるものになるだろうとしている。

トランプ氏は、スコット・ベッセント財務長官やブルック・ロリンズ農務長官と共に出席したホワイトハウスでのイベントで、農家支援策を発表した。

このイベントには、議会議員のほか、トウモロコシや綿花、モロコシ、大豆、米、牛、麦、ジャガイモの農家も出席していた。

「国内の農業生産を最大化することは、アメリカを再び手頃なものにし、食料品価格を引き下げる大きな要素だ」と、トランプ氏は述べた。

中国が最大の輸出先であるモロコシや大豆の農家は、トランプ政権による対中貿易摩擦で大きな打撃を受けている。

ホワイトハウス関係者によると、今回発表された支援金は、農家が今年の収穫分を販売し、来年の作付け計画を立てるのを支援するもので、トランプ政権の政策が「より良い市場環境をもたらす」までの橋渡しになるという。

ロリンズ農務長官は、10億ドル分については、当局者が「特殊農作物」の状況を把握し、政府が確実に「必要なあらゆる前進を行う」ために留保すると述べた。

追加の農業支援策の計画はあるのかと問われると、トランプ氏は市場の動向次第だと答えた。

「農家は支援を望んでいるわけではない。彼らが望むのは公平な競争の場だ」

今回の発表は、物価上昇にアメリカ人がますます懸念を抱いていることが世論調査で示される中で行われた。トランプ氏は折に触れて、物価問題は民主党による「でっちあげ」や「詐欺」だと述べている。

トランプ氏による貿易政策の結果、中国市場へのアクセスを失った米農家からは不満の声も上がっていた。

中国は大豆の世界最大の市場で、ここ数十年はアメリカ産大豆の主要な買い手だった。

しかし、今年初めにトランプ氏が中国製品に新たな関税を課すと、中国政府は数カ月間にわたり、米国産大豆の輸入を事実上停止した。

トランプ氏は8日、メキシコに5%の追加関税を課すとも警告した。米農家への水供給を認めることを定めた条約に、メキシコが違反しているためだとしている。

「必要不可欠な水を得るに値する米農家にとって、非常に不公平な状況だ」と、トランプ氏はソーシャルメディアに投稿した。

トランプ氏が言及したのは、米メキシコ国境のリオ・グランデ川からのアメリカへの水供給を認める、80年以上前に締結された条約だ。

アメリカは数十年にわたり、メキシコがこの条約を履行していないと非難している。

農家の反応

インディアナ州パットナム郡の畜産・トウモロコシ・大豆農家のマーク・リーガン氏はBBCに対し、今回発表された政府支援は「自分たちの採算ラインを支える」だろうと述べた。

農産物価格が下落し収益性が急落する中、この資金でトラクターやその他の機械を買い換えられると、リーガン氏は述べた。同氏は、こうした投資を先延ばしにしてきたのだという。

トランプ氏は第1次政権下でも農家支援策を実施した。2019年には220億ドル、2020年にはコロナ禍の救済を含む460億ドルの支援パッケージを打ち出した。

リーガン氏は、新たな支援策も第1次政権時代と同様に、持続的なコスト削減を求める圧力や輸出市場の縮小を解決するものにはならないとみている。

「依然として問題なのは、生産コストが高いこと」で、農薬や種子の価格が過去最高水準になっていると、リーガン氏は指摘した。

「一部の市場は開放されたが、農産物の輸出量はかつての水準にはまだ戻っていない」と、リーガン氏は付け加えた。

イリノイ州の別の農家ブラッド・スミス氏は、シカゴで開催されたイリノイ州の農業関連会議に出席していた際に、120億ドル規模の支援策について知ったという。

「誰も心から喜んでいるわけではないが、それを断れる立場にはない」と、スミス氏は述べた。「今後、このような支援が必要にならなくなることを、私たちは願っている」。

政府から資金を得た場合、それが手元に残るのは3日程度だろうと、スミス氏は述べた。未払いの請求書の清算や、来年の作付けに向けた種子や農薬、肥料の購入に充てることになるからだという。

スミス氏は、政府支援を大規模農家ではなく、最も必要とする農家に配分することが、これまでの課題だったと述べた。

トランプ氏は10月、アジア歴歴訪最後の訪問先の韓国で、中国の習近平国家主席と会談した。ホワイトハウスは会談後、中国が2025年末までに少なくとも1200万トンの米国産大豆を購入し、その後3年間は年間2500万トンを購入することを約束したと発表した。

これまでに中国が購入した米国産大豆は、その約束の約4分の1にとどまっている。

それでも、中国による大豆購入は加速していると、ベッセント米財務長官はBBCがアメリカで提携するCBSに語った。同氏によると、中国は来年2月末までに購入目標を達成する可能性が高いという。

農業支援策が必要な理由について問われると、ベッセント氏は「中国は実際に我々の大豆農家を貿易交渉の駒として利用した」と答えた。

「我々がこの橋渡しを設けるのは(中略)農業が未来そのものだからだ」、「来年は状況が非常に良くなる見込みなので、今からそのための資金調達を始める必要がある」と、ベッセント氏は述べた。

トランプ氏は6日、食料供給網の安全保障に関する「タスクフォース」を設置し、農業分野の「反競争的行為」を評価する大統領令に署名した。

(追加取材:ピーター・ホスキンス)

(英語記事 Trump unveils $12bn farm aid package to help farmers who faced 'unjustified trade actions'

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c2epj1v8re8o


新着記事

»もっと見る