フランスのルコルニュ首相
フランスの国民議会(下院)は9日、分断が続くなか、来年度の社会保障予算案を可決した。セバスチャン・ルコルニュ首相にとっては、重い試練を一つ、どうにか乗り越えた格好となった。
社会保障予算案は、賛成247、反対234で可決された。今後、上院で審議された後、下院で最終審議される。
来年度の本予算案は、年内に採決が予定されている。今回の社会保障予算案が可決に至らなければ、ルコルニュ氏の力は大きくそがれるところだった。
ヤエル・ブロン=ピヴェ下院議長は、「過半数の賛成を得たのはよい兆候だ。(社会保障予算案が)最終的に採択される可能性が非常に高まった」と述べた。
エマニュエル・マクロン大統領に9月に首相に任命されたルコルニュ氏は、来年度予算案を両院で通過させるという困難な仕事に専心している。
下院は、マクロン氏による昨年6月の解散を受けて総選挙が実施された結果、中道、左派、極右の3ブロックにほぼ均等に割れ、いずれも過半数を得られる状況にない。
総選挙以降、首相が相次いで変わっており、ルコルニュ氏は4代目。ミシェル・バルニエ氏はちょうど1年前、2025年度の社会保障予算案を議会で通せず辞任した。後任のフランソワ・バイル氏は、急増する債務を抑制しようとして辞任に追い込まれた。その後を継いだルコルニュ氏は、10月6日に任期26日という短さで首相を辞任。しかし10月10日に、マクロン氏によって再任命された。
中道左派・社会党を取り込む
フランスでは、予算関連の法律が二つある。一つは、医療や年金を含む社会保障制度の財源を捻出・配分するもので、もう一つは防衛や教育など、それ以外のすべてをカバーする主要なもの。どちらも長年にわたり巨額の赤字を出し続けてきた。
ルコルニュ氏が予算案を通過させるうえで主なターゲットとしたのが、約70議席をもつ社会党(PS)だった。同党への大きな譲歩としてルコルニュ氏は、マクロン氏が大統領2期目の重要改革と位置づける、定年年齢の64歳への引き上げを棚上げにした。また、議会で予算案を採決なしで強行通過させる政府権限(憲法49条3項)を行使しないと約束した。
社会党のオリヴィエ・フォール党首と議会トップのボリス・ヴァロー氏は、ルコルニュ氏の歩み寄り姿勢を称賛。党所属の議員らに、予算案に賛成するよう指示していた。
ルコルニュ氏は、中道左派に歩み寄ったことで、自陣営・中道右派の支持を失うことになった。エドゥアール・フィリップ元首相など中道右派の重要人物が、今回の予算案について、急速に悪化する財政収支をほとんど改善できないと批判している。
保守派の共和党(約40議席)のブリュノ・ルタイヨー党首も採決後、「この予算はマクロンがもう少し政権にとどまることを可能にするが、フランスを行き詰まらせるものだ」と発言した。
極左「不屈のフランス(LFI)」のマティルド・パノ氏も、社会党は自らの原則に背いたとし、「もはや野党ではない」と非難した。
下院最大の政党で、マリーヌ・ルペン氏が率いる強硬右派の「国民連合(RN)」(約120議席)も、予算案に反対票を投じた。
現在、人々の関心は本予算案の採決に移っている。アナリストらは、社会保障予算案を通せなければ、ルコルニュ氏が本予算を通過させる可能性はほとんどないないとしていたが、社会保障予算案が通った現在も、本予算の議会通過はまったく確実ではない。
もし本予算を通せなければ、今年度予算を使って来年1月1日以降の国家行政機能を継続させる特別法を、ルコルニュ氏は導入しなくてはならない。この手続きは、今年の初めにもとられた。
それでも、9日の採決結果は、政治的立場を超えて舞台裏で粘り強く支持を獲得する「ルコルニュ・メソッド」の勝利と広く受け止められた。
