オーストラリアで10日、16歳未満のソーシャルメディアの利用を禁止する法律が世界で初めて施行された。ティーンエイジャーの多くは、同日からアカウントが使えなくなった。
しかし、こうした規制をすり抜け、見つかるまでソーシャルメディアを閲覧したり投稿したりするつもりだと、BBCに話す若者もいる。
新法では、メタやTikTok、ユーチューブといったソーシャルメディアを運営する企業は、オーストラリアの16歳未満がアカウントを保有しないように「合理的な措置」を講じなくてはならない。
この禁止措置に、世界各国の指導者は大いに期待を寄せている。テクノロジー企業が不安を抱く中、有害なコンテンツやアルゴリズムから子どもを守るために必要な措置だと、正当化する声が出ている。一方で、全面的な禁止は現実的ではなく、賢明な措置とは言えないとの批判もある。
この画期的な政策は、アンソニー・アルバニージー首相が特に力を注いできたプロジェクトの一つ。アルバニージー首相は10日、この政策には世界中の人々の人生を変える力があると確信していると、メディアに語った。
「オーストラリアの首相であることに、これほど誇りを感じた日はない」と述べるアルバニージー氏の周りには、禁止措置を推進してきた保護者たちやメディア関係者が並んでいた。
「これは、『もうたくさんだ』というオーストラリアの意思表示だ」
「オーストラリアが世界をリードしてきたほかの偉大な改革とともに、これが受け入れられるだろうと、私は考えている」
子どものソーシャルメディア利用を制限する取り組みは、アメリカ・フロリダ州から欧州連合(EU)に至るまで、世界各地で行われてきた。しかしオーストラリアは、利用可能年齢を16歳に引き上げることに加え、保護者の同意があれば使用を認めるという例外を設けないことを決めた。こうして、世界で最も厳しい法律が施行されることとなった。
デンマークやマレーシア、シンガポール、ギリシャ、ブラジルなどは、オーストラリアの新法を試験的事例として注視している。
10のプラットフォームを規制、企業に罰則も
オーストラリア政府はまず、10のソーシャルメディアプラットフォームを規制対象とした。これらには、人気の高いプラットフォームが複数含まれる。ほかのプラットフォームについても順次適用していくと、政府は警告している。
オンライン安全規制当局のジュリー・インマン・グラント氏は、11日から新法の順守状況を確認していくと説明した。重大な違反を行ったソーシャルメディア企業には最大4950万豪ドル(約51億円)の罰金が科されるが、保護者や子どもは責任を問われない。
「明日(11日)、10の主要プラットフォームに情報を通知する。クリスマス前に年齢制限の実施状況と、初期段階で効果が見られるかどうかを公表する」と、インマン・グラント氏は述べた。
子どもと保護者の反応
オーストラリアでは、ソーシャルメディア企業が自社のプラットフォーム上でユーザーを、特に子どもたちを有害コンテンツから守れていないという認識が広く共有されている。
タスマニア州の学生フローレンス・ブロドリブさん(通称フロッシー)は、この禁止措置が子どもたちの「より健康で、安全で、親切で、いろいろなものとつながっている」成長に役立つと信じていると、メディアに語った。
「今の私たちは、脳の配線が人生で一番、組み換えられる年齢だけれども(中略)ソーシャルメディアは、それを自分たちに都合よく利用する仕組みになっている」と、12歳のフローレンスさんは述べた。
「若者は、もっとまともに扱われるべきだ」
複数の世論調査では、今回の禁止措置が保護者の間で高く支持されていることが示されている。ネットいじめや、児童搾取の減少につながることを、保護者は期待しているためだ。ただ、子どもたちには不評だ。
メンタルヘルスの問題がある人を支える人たちの一部は、今回の措置を支持している。しかし、特に性的マイノリティー(LGBTQ+)の若者や神経多様性のある若者、あるいは農村部などに住む若者から、他者とのつながりを奪うことになり、結果としてそういう若者がネット社会の現実になかなか対応できない状態を作ってしまうと、懸念の声も多く上がっている。
「私の一番親しい友人は、30キロくらい離れた場所にいる。(中略)次に親しい友人は、100キロ以上離れたところにいる」と、15歳のブリアナさんはBBCに話した。
「スナップチャットを取り上げられたら、私たちのコミュニケーションも奪われてしまう」
複数の専門家は、子どもたちが比較的簡単に規制をすり抜けてしまうのではないかと懸念している。年齢確認技術を欺いたり、より安全性の低いネット上のほかの場所を見つけたりする可能性があると言われている。
規制に批判的な人の多くは、規制よりもむしろ、教育の強化や節度ある利用を促すべきだとしている。シドニー在住の2児の父親イアンさんも、そうした意見の一人だ。
「(この政策は)良い考えに基づいたものだが、これが正しいやり方なのかどうか。私は確信できない」と、イアンさんはBBCに話した。
ほかの国でも同様の禁止措置が広がるのを阻止したいテック企業は、豪政府の対応は行き過ぎだと主張する。多くのプラットフォームでは最近、ペアレンタルコントロール(保護者が子どもの使う情報通信機器などを管理する機能)が強化されており、これが解決策になるとしている。
豪政府は、ソーシャルメディア企業には禁止措置を導入するための十分な資金と技術があると主張しつつ、その期待値の調整も図っている。
アルバニージー首相は10日、「何をもって成功とするのか(中略)という質問を受けた。成功とは、それ(目的が)実現している事実のことを言う。私たちがこの議論を行っているという事実がある。これが成功だ」と述べた。
「私たちは、これが完璧ではないだろうと承知している。そのことに取り組んでいく」
前出のオンライン安全規制当局のインマン・グラント氏は、オーストラリアは長期的視点で取り組んでいると主張。子どもがいかに禁止措置を回避しているかという話がしばらくは注目されるだろうが、それでも報規制当局は揺るがないと述べた。
「(オーストラリアの動きに)世界は追随するだろう。かつて、各国がタバコのパッケージや銃規制改革、水や紫外線の対策で我々に続いたように」と、同氏は付け加えた。
(英語記事 Kids locked out of social media apps after Australia's world-first ban)
