2025年12月23日(火)

下水道からの警告

2025年12月23日

下水道問題の真相を示す
「時間軸」と「未調査地域」

 日本の下水道普及率が飛躍的に伸びたのは1970年代後半から80年代にかけてだ。大都市圏や中核都市では60~70年代に整備が進んだ地域が多く、すでに老朽化の荒波を真正面から受けている。一方で、人口減少が進む地方の整備時期は都市部より10~20年遅い。このずれはプラスに捉えれば都市部と地方で老朽化のピークが重ならないことを意味する。この時間を活用し地域ごとの戦略を設計する必要があるだろう。

 都市部ではすでに深刻な問題が進行している。民間施工会社の人材不足から、自治体が発注しても入札不調となる事例が相次ぐ。「自治体の提示額では赤字になる」という理由で民間企業が辞退する状況は珍しくない。こうした状況は10年後には地方でも避けられないだろう。人口減少地域では、老朽化・財政不足・人材不足が同時進行するため、都市部以上に身動きが取れなくなる可能性が高い。

 さらに注目したいのが、下水道施設の更新費用の高さである。上水道管の更新費用が1㌔・㍍あたり約1〜2億円とされるのに対し、下水道管はその3〜4倍とされる。大口径で地中深く埋設され、周囲に他の埋設物が密集しているケースが多いため、工事の難易度は桁違いである。大量の老朽管が更新時期を迎えれば、自治体の財政が耐えられなくなるのは明白だ。

 現状の改善策として、しばしば提案されるのが「複線化(多重化)」である。これは主要な幹線にバックアップを設け、どちらかが故障しても下水処理を継続できるようにするという発想だ。理屈は合理的だが、複線化によって管路を増やすと建設・維持管理費も膨らむ。

 老朽化が進む都市部ではこの案を採用せざるを得ないだろう。なぜなら容易には解決できない重い課題があるからだ。それは国土交通省「下水道管路の全国特別重点調査」の「未了延長」から推察できる。

 未了延長とは、調査が行われていない管路の長さであり、下水道管内の水位が高い、河川を横断するために管の接続が複雑など、調査が難しく作業の危険をともなう。国土交通省によれば、千葉県流域下水道では約6.18キロ・メートル、尼崎市下水道では約4・59㌔・㍍が未調査のまま残されている。

 老朽化の進度が把握できず、空洞化や浸食が進んでいる可能性があるにもかかわらず、リスク評価の手がかりすら乏しい。こうした地域は複線化によって下水のルートを変えることで点検や修理が可能になる。

 しかし、複線化は、短期的なリスク回避には寄与するが、人口減少・財政縮小の構造問題には対応しきれない。むしろ維持管理費を押し上げ、次世代の負担を増やす。

 そこで総合的判断が必要となる。どの地域から更新し、どの機能を守り、どのインフラを縮退させるのか──。日本の下水道はいま、維持でも拡張でもなく、選択と集中、そして「しまう」という発想の転換を迫られている。


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