2006年以来、再びタイで軍事クーデターが発生した。この国はタクシン氏が政権を取った01年以降、票集めのための“ばら蒔き”政策と、膨大な規模の汚職の繰り返しで大きく変わってしまった。国民の多くは、急速な経済成長がもたらした「物質的な豊かさへの欲望」に目覚めた。また、タクシン政権下でITや通信事業を核とする、ゴルフ場、ホテル、リゾート、レストランなど多岐にわたるタクシン一族の事業に乗ることで巨万の富を得た政治家・実業家が権勢を展ばした。
バンコクのクーデターで記念撮影する市民 (Reuters/Aflo)
これに対し、首都圏を軸に徐々に育ってきた中間所得層とインテリ層が中心となり、こうした動きに危機感を募らせ、タクシン一族が経営する企業に対する不買運動などで反政府運動を活発化させた。その結果、タクシン一族と、その周辺の政治家・事業家、ばら蒔き政策で生活レベル向上の恩恵に浴した北部農民層を中心としたタクシンを擁護する「赤シャツ」派と、民主党・王室を擁護する「黄シャツ」派の対立として社会が大きく変貌し始めた。
さらに11年、タクシンの妹インラックが首相になって再び兄が妹を通じタイの政治を操る様になり、兄の帰国を助けようとしたことから現在のタイ国民同士の深刻な対立に火が付いた。
両者が納得できる指導者の出現が望めないまま、最終的には軍が出動するか国王陛下が立ち入らなければ収拾の見通しは付かないと思われていたが、案の定、軍の出動となった。