2025年12月18日(木)

21世紀の安全保障論

2025年12月18日

軍事圧力を認知戦に利用する中国

 そもそもノータムとは上空を飛行する民間航空機に対し、事前に訓練の実施日時と空域を知らせ、安全のために必要があれば迂回させることが目的であり、航行警報も付近を航行するタンカーなどの船舶に対し注意を呼び掛けるために発出されている。近くで監視する海自の護衛艦に対し「訓練を始める」と伝えたことが事前通告にあたるという中国の主張は問題の本質をすり替え、言い逃れ以外の何ものでもない。

 小泉防衛相が主張しているように、レーダー照射は攻撃の意図を含んだ極めて危険な行為であり、30分もの間に何度も照射を繰り返すなどは尋常ではない。しかも、防空識別圏の内側という日本の領土・領空に極めて近い場所で訓練すれば、日本が監視するのは当たり前であり、中国はそれを認識した上で実行した暴挙と言っていい。

 さらにレーダー照射事案直後の9日、中国軍はロシア軍と共同して爆撃機による共同飛行を実施し、空母「遼寧」の航行ルートと重なるように飛行しただけでなく、四国沖から紀伊半島南方にまで進出してきた。爆撃機は核兵器搭載可能な戦略爆撃機であり、日本を威嚇する目的だったことは明らかだろう。

 日本への報復措置は、わずか数日間で軍事レベルにまで引き上げられたが、この間、日本国内のSNSやテレビなどでは、「日中対立の発端は高市首相の発言」、「発言を修正、撤回すべき」といった発信や主張が増えはじめている。経済的な措置から軍事力の行使にまで対日威圧を強化する中国への怖れや不安が背景だろうが、中国の思うつぼと言っていい。

 なぜなら対日威圧に軍事力を使う目的は、一触即発という恐ろしさを示すことで、国民を心理的に高市批判に結びつけようというのが狙いであり、中国は今後、日本の世論分断を目的に、軍事的な圧力を強化、常態化させる恐れがある。

軍事圧力を常態化させる3つの理由

 今回、中国海軍が初めて沖縄本島と沖大東島間の海域で空母「遼寧」を展開させ、発着艦訓練とレーダー照射を実施し、その直後に、中国空軍が戦略爆撃機を飛行させた理由の一つは、習近平国家主席に対する軍の信頼を回復させることが目的だと思われる。

 10月下旬に行われた中国共産党の重要会議(四中全会)を前に、人民解放軍のトップを含め9人の将官が失脚、会議で承認されている。失脚した幹部の中には習主席が引き上げた腹心の部下も含まれ、会議に出席するはずだった他の将官の多くも汚職調査を受けて欠席したことが伝えられている。

 ところが、軍に対する習主席の信頼が著しく低下した時に発生したのが、習主席を怒らせる高市首相発言であった。軍はこの機を逃さず、習主席の意向を忖度し、急いで行動に移したと考えれば、ノータムや航行警報を出さなかったことと辻褄が合うだろう。


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