1つが「棚田オーナー制度」。都会の企業が資金を出して「オーナー」になってもらい、そこでできたコメは、その企業に贈答用などとして使ってもらう。全国の中山間地で試みられている制度を、養父にも導入したのだ。企業の出資額は1アール(10メートル×10メートル)あたり4万8000円。45キロの玄米を収穫できる。農家には農協に販売した場合に比べて2倍の価格を支払うから、実入りは大きい。生産効率が低い棚田でも維持できるというわけだ。初年度2ヘクタールから始めたが好評で、徐々に拡大していく計画だ。
もう1つが「休耕田復活事業」。休耕田になっているところをやぶパートナーズが農家から借り受け、同社が雇った若者が耕作する。水田だけでは給料が出ないので、やぶパートナーズが道の駅で経営するコンビニエンスストアでも働く。建屋(たきのや)地区の休耕田を任されている阿部博史さん(23)は茨城県取手市から奥さんと2人で移り住んだ。一歩一歩だが雇用を生み、住民を増やす手ごたえを感じている。「耕作地を休耕田のままにしておくと、水田として復活できなくなる。新しい農業の担い手を増やすためにも、田んぼを復活しておくことが不可欠だ」と三野さんは語る。
よそ者、若者、馬鹿者
もちろん、コメなどの農産物をそのまま売っていては経済的に成り立たない。今はやりの6次産業化にも取り組んでいる。三野さんが注目するのは地域のおかあちゃんたち。地元をもり立てようという意欲が強い。
取材に伺った6月中旬には小佐(おさ)地区の廃校になった小学校で地元のおかあちゃんたちが、料理の腕をふるう「おさごはんの会」が開かれていた。赤米のおにぎり、もろみ味噌ときゅうり、鶏のから揚げ、漬物、栃餅、コメで作ったポン菓子。地元のひとたちが金券片手に思い思いのコーナーで料理と引き換えていく。