「昔から作ってきた美味しいものは、いっぱいある。それをもう一度掘り起こそうと思ってね」と森本佐智子さん(66)。創作料理の開発にも熱心に取り組む。そんな取り組みからヒット商品が生まれれば地域おこしにつながる、という思いからだ。
次は、養父市の名所である名草神社で「ごはんの会」を開く計画だという。名草神社は市内の妙見山の山中にあり、1665年に出雲大社から移築された国の重要文化財の三重塔が建つ。出雲大社の大改修にあたって妙見杉を提供したお礼として贈られたものだという。境内には樹齢250年から400年とされる妙見杉の巨木が立ち並ぶ。道が険しく観光客は多くないが、知る人ぞ知るパワースポットだ。この地元の宝と、地元ならではの味を組み合わせて売り出そうというわけだ。
他にも養父には、蛇紋岩米や但馬牛、八鹿豚、朝倉山椒、八鹿浅黄といったブランドの産物がある。それを使ってどう高付加価値商品を作っていくか。
三野氏が注目しているのが朝倉山椒だ。これを生かした商品を作れないかと頭をひねる。定番の佃煮ではなく、「山椒のジェノベーゼ」という新商品も生まれた。オイル漬けの山椒やハーブをパスタにからめるだけの瓶詰めソースだ。山椒は香辛料として世界的にもブームになりつつある。やぶパートナーズが山椒農家から高めの値段で買い取って乾燥加工し、世界に向けて輸出することを考えている。
街おこしには「よそ者、若者、馬鹿者」の視点が不可欠だと言われる。地元に長年暮らした人にとっては、ごくごく当たり前の物事が、よそ者には感動を与え、ファンができる。地域の魅力を発掘する役割を「よそ者」の副市長に任せたのは英断だ。
養父は今年3月、安倍内閣から「国家戦略特区」に指定された。全国各地で限界に直面する中山間地農業の改革モデルという位置づけだ。
メディアでは農業委員会と市長の対立ばかりに焦点が当たっていたが、「このままでは沈んでしまう」という危機感は市民が共有する。やぶパートナーズと一緒にやろうという動きが急速に広まっているのも、そんな危機感が背景にある。
(写真・生津勝隆 Masataka Namazu)
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