2026年7月23日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2026年7月23日

 さらに追加学習を行うことで改造することも可能だ。オープンウェイトAIのダウンロード数では中国17.1%、米国が15.86%とすでに中国が上回っている(AIの公開サイトHugging Faceにおける25年8月時点での直近1年間のデータ)。特に、中国アリババグループのAI「Qwen」(クウェン)の人気が高く、Hugging Faceのデータによると、26年春時点で改造によって作られた派生モデルの数では最多となっている。

 オープンウェイトのAIを改造すれば、ゼロからAIを構築するフルスクラッチと比べればはるかに低コストで、「自分たちのAI」を保有することができる。現在、世界各国ではソブリン(主権)AIを作る動きが活発化している。

 他国のAIに依存すれば、自分たちの文化や価値観を失いかねない。子どもたちがAIを使って過去の歴史について学ぶ時、米国や中国のAIによる解釈を「正解」として受け止めていいのか。正義や恋愛についての価値観を他国のAIに委ねていいのか。わかりやすい事例を出すならこういうことだ。

 さらに今年6月、米トランプ政権が輸出管理措置としてアンソロピックの最新AI「Claude Fable5」の外国人への提供中止を指示(7月1日に提供再開)したことで、ソブリンAIの需要はさらに高まった。政治的緊張からいつ供給が断たれるか分からないとなれば、リスク回避にやはり「自分たちのAI」が必要ではないか、と。

 中国製AIを改造したソブリンAI開発は、すでに現実のものとなっている。カザフスタンのソブリンAI「AlemLLM」はDeepSeekベースとみられる。ウガンダの非営利研究組織Sunbird AIはQwen3ベースの「Sunflower」を公開した。

 東南アジアでもマレー語・ベトナム語・タイ語向けのQwen2.5派生モデルが相次いで公開されている。自国語の学習データや技術者、計算資源が限られる国や地域にとって、性能が高く、モデルの中身を自ら調整できる中国製オープンウェイトAIは、現実的な開発基盤になりつつある。

 中国と同じくAI開発を支援すると標榜する日本だが、中国ほどの高性能オープンウェイトAIを提供することはできない。それどころか、日本自身が独自AI開発に中国の力を借りているのが現状だ。

 楽天がリリースしたRakuten AI3.0はDeepSeek-V3系のアーキテクチャを採用している。また、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施するプログラム「GENIAC PRIZE」では国産基盤モデルを活用したアプリケーション開発コンテストを実施しているが、その国産基盤モデルは日本がゼロから作ったものだけではない。「既存の基盤モデル(国産に限らない)を追加学習したモデル」も、国産モデルで扱うと定義されている。

 自力でフロンティアモデルを開発できないという意味では、日本もグローバルサウスの国々と同じサイドになっている。

「コスト」では中国優位

 もう一つのポイントがコストだ。中国製AIは米国のAIと比べて利用コストがきわめて低い。運営企業が提供するAPI価格で比較すると、GPT5.6と比較してDeepSeek V4やGLM5.2は数分の一程度。Kimi K3でも約半額だ。圧倒的に安い。

 安さの秘密だが、米国の制裁で半導体入手が制限されている中国企業はコンピューティングパワーを節約する設計を磨いてきたこと、価格競争が激しいこと、政策支援、電力価格やデータセンター建設費の安さなどが要因とされる。

 一般ユーザーが一問一答のチャットとして使う分にはこのコスト差はさほど気にならないが、大規模なソフトウェア開発、膨大な量のデータの整理や処理、複雑な処理を実行するAIエージェントの活用になれば、AIを稼働するコストは膨れあがるため、節約は重要なテーマとなる。性能が多少劣るだけで価格は大きく下がる。企業が中国モデルに心を動かされるのは当然だろう。


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