2026年8月12日(水)

オトナの教養 週末の一冊

2026年8月12日

複雑な表記に潜む歴史とドラマ

ヤバい日本の住所 
河合太郎 (著)  幻冬舎 
¥1,056 税込

ヤバい日本の住所 河合太郎 (著)  幻冬舎 ¥1,056 税込

 続いて紹介するのは『ヤバい日本の住所』(河合太郎 著、幻冬舎新書)である。日本各地の住所表記をテーマにした一冊だ。

 日本には実にさまざまな住所表記が存在するが、京都の通り名を使った独特な表記などはその代表例だろう。本書に紹介される例をひくと、以下のようなものが挙げられる。

・京都市中京区寺町通御池上る上本能寺前町488 (京都市役所、通り名が特徴)

・静岡県下田市3丁目22-31(下田海中水族館、市の後にいきなり「丁目」がくる)

・大阪市中央区上町A(日本で唯一、街区符号にアルファベットを使用)

・兵庫県明石市和坂(同じ表記なのに違う住所。「わさか」と「かにがさか」)

 以上の例をみてもわかるように、アメリカをはじめとする海外の整然としたシンプルな住所表記とは異なり、日本の住所は地域ごとに千差万別である。「AIやデジタル技術を使えば簡単に統一できるのではないか」という発想をついしがちだが、コトはそう簡単ではないことが本書を読むとよく分かる。著者は全国の多様な住所表記について調査を重ね、背景にあるストーリーを描き出しており興味深い。

 複雑な住所表記が各地に広がっている背景には、地域の歴史的な成り立ちや、各時代の「大合併」などにみられる行政区画の変遷がある。また地域独特の事情や利害調整などの結果といった経緯もある。

 地方における「大字(おおあざ)」や「字(あざ)」といった地名表記は、都市部出身者にはわかりづらい。一方、住居や店舗が密集する大都市では、都会ならではの難しさも存在する。

 全国各地に複雑な住所表記が多くありながら、郵便物や宅配便は確実に届いており、配達員の方々の対応には敬意を表したい。さらに、昔ながらの住居表示を守りたいとする地域の思いや工夫がなされていることについても、それぞれの地域力が発揮されている様子が伺える。

 著者はこう記す。

 一つひとつの住所の成り立ちを追えば追うほどに、どれほど深くその土地に根差しているのか、それが鮮やかに浮かび上がってくるのです。

 私たちが普段当たり前のように使っている住所の裏側にある歴史や文化に目を向けてみると、身近な街の風景が少し違って見えてくる。


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