国枝や千賀のやり抜く力
思い浮かべたある言葉
GRITとは、困難や失敗があっても諦めずに一貫して目標へ向かい続ける能力のことだが、千賀に劣らずこの成功への特性を備えていたのが、冒頭に紹介した国枝である。
彼は12年のパラリンピックロンドン大会で2度目の金に輝いた後、右肘の痛みに苦しみ、勝てない時期を経た。それでも日本選手団主将として挑んだ21年東京パラリンピックで3度目の金メダルを獲得する。
さらに、全豪、全仏、ウインブルドン、全米の四大大会を制覇し、男子シングルス史上初の生涯ゴールデンスラムに輝いて、23年には国民栄誉賞を授与されている。
あのとき、千葉の喫茶店を颯爽と出ていく国枝の姿は、さらなる高みへと向かう一瞬だったのだろう。そして、やり抜いた。
いま国枝は42歳。「日本にはクニエダがいる」と新聞のコラムに取り上げられる存在になった。テニスの世界チャンピオンだったロジャー・フェデラーが日本人記者からこう尋ねられたという。
「なぜ日本のテニス界から世界的な選手が出ないのか」
すると、フェデラーは即答した。
「日本にはクニエダがいるじゃないか!」
国枝は、世界的プレーヤーからも敬愛される存在になったのである。
私は編集者に国枝の大飛躍について話を聞き、名古屋の筒井宣政・陽子夫妻から教えてもらった言葉を思い浮かべた。
筒井夫妻は「三尖弁閉鎖症」という先天的な心臓の難病を抱える次女を救うために、何の知識もないところから人工心臓の研究開発を始めた。借金を背負いながら、「東海メディカルプロダクツ」を設立して、ついに国産のカテーテル作りにたどりついた。娘は助けられなかったが、夫婦は日本人の体格に合わせたカテーテルで17万人の患者の命を救っている。東宝・WOWOW映画にもなったその筒井は私にこう告げた。
「人は自分で考えているよりも10倍の力を持っているんですよ」
国枝や千賀は、私たちの身体の奥にある10倍もの飛躍の力を、わかりやすい形でみせてくれているのだ。(文中敬称略)
