及び腰だったEUで高まるロシアへの批判
だが、7月にマレーシア機撃墜事件が発生すると、欧米のロシアに対する批判は更なる高まりを見せる。特に、これまでEUは対露制裁に及び腰であったが、オランダ発のマレーシア機の撃墜事件ではオランダを中心に多くのEU市民が犠牲となったため、ロシアへの態度を硬化させたのだった。こうして、米国とEUは対露制裁で共同歩調をとることで合意し、米国が7月29日、EUが同31日に大規模な制裁を発動した。
新たな制裁では、ロシアの基幹産業であるエネルギー、防衛、金融セクターを標的とし、ロシアのエネルギーセクターへの特定の物品・技術の輸出を禁止するのみならず、制裁対象の銀行や防衛関連企業を拡大すると共に、対露輸出促進のために設けられていた信用保証やロシアの経済開発プロジェクトへの融資を停止した。また、制裁に同調するように第三国にも働きかけが行なわれた。この追加制裁がロシアに与えるダメージは甚大である。一般市民も海外旅行先でホテルやフライトの予約が取消されるなど、市民の間でも混乱が広がっている。
そして日本もG7メンバーとして追加制裁に踏み切らざるを得なかった。8月5日に発動された対露追加制裁の内容は、クリミア編入やウクライナ東部の混乱に関わったとされるヤヌコーヴィチ前大統領や「クリミア共和国」と東部親露派の「ドネツク人民共和国」の指導者など40人の資金凍結と、クリミア産品の輸入規制を設けるなどクリミアの2企業に対する制裁である。対露追加制裁は、G7メンバーとしての責任を果たさねばならない一方、ロシアとの関係を維持し続けたい日本にとって苦渋の選択であった。それが故に、ロシア政府高官やプーチンに近い人物などを制裁の対象から外すなど、欧米の制裁内容と比べるとかなり軽微な内容となっており、ロシアへの配慮が見て取れる。
この日本の追加制裁に対し、ロシア外務省は反発を示し、8月にも開催されることで調整が進んでいた北方領土問題を議題とする日ロ次官級協議を延期すると発表した。このことは、秋に予定されていたプーチン大統領の訪ロが現状では不可能になったことも意味する。次官級協議すら実現しない状況に加えて、4月に予定されていたが延期となっている岸田外相の訪ロもまだ実現していないなか、プーチン大統領の訪日が実現するはずがないからだ。
ロシア側は、プーチン大統領訪日の前提条件として岸田外相の訪ロを掲げている。しかし、今、岸田外相が訪ロすれば、欧米から大きな反発を招くのは必至だ(他方、岸田外相は7月17日にウクライナを訪問し、首脳陣と会談した)。このように日本が何としても避けたかったウクライナ問題が北方領土問題に悪影響を及ぼすというシナリオが実現してしまった。