全体を通じて言えることは、米国が対露経済制裁を推進する一方、ロシアとの政治的・経済的関係が深い欧州諸国の多くが制裁に消極的であり、また特に安倍政権になって、プーチン大統領と5回会談するなど、首脳間の個人的信頼関係の構築から北方領土問題の解決を目指してきた日本も当然制裁には及び腰だった。そのため、最初に日本が行なった制裁は極めて軽微なものだった。G7メンバーとして共同歩調をとる中で、3月18日、国レベルの制裁としてはビザ緩和の協議停止、投資、宇宙開発、危険な軍事活動の防止の3つの協定に関する協議の凍結を発表した。この内容から、ロシアはむしろ日本を評価していた(5月の拙稿「ウクライナ問題による北方領土と尖閣への影響」)。
だが、これまで安倍首相に対して心を開かなかったオバマ米大統領が4月23日~25日に訪日したのだ。議論の内容はTPP問題など多岐に及んだが、ウクライナ問題での協力要請もオバマの大きな目的だったことは間違いない(同拙稿参照)。
その後、ウクライナ東部の情勢悪化を受け、米国は段階的に制裁レベルを上げ、EUも遠慮がちに制裁規模を広げていった。その中で日本は4月29日と8月5日に追加制裁措置をとった。また、日本は4月の岸田外相の訪ロや経済ミッションも延期としていた。
プーチンのメッセージ
4月29日の追加制裁は、明らかにオバマ大統領訪日の果実と考えて良いだろう。その内容は、「ウクライナの主権と領土の一体性の侵害に関与したと判断される計23名に対し、日本への入国査証の発給を当分の間停止」するというものであった。3月の制裁発動の際には日本に好意的だったロシアが、この4月の制裁には失望を表明し、対抗措置をとる構えを見せた。この際、ロシア側が強調したのは、日本が外部からの圧力によって制裁措置をとった事に対する不快感だ。つまり、3月の際には、日本は米国追従外交をやめたとその対応を評価していたのだが、やはり米国追従外交に戻ったことを特に批判しているのである。
それでも日本がロシアとの関係を壊したくないという思いの中、苦悩の中で制裁をしていることはプーチン大統領も良く理解しているといえる。それが5月24日のプーチンの発言に現れているといえそうだ。
プーチンは日本へのメッセージとして(1)ロシアは四島全てを対象に平和条約交渉を行なう、(2)最終的な解決案はまだなく、困難で複雑な交渉を共に行なっていく中で生まれる、(3)相互の利益を損なわず、共に敗者とならないような引き分けのような解決を模索、(4)日本の制裁には驚愕し、日本に交渉の意思があるのか疑念をもつ、というような内容を示した。日本に対する牽制のメッセージと同時に、北方領土4島全てを交渉の対象とし、前向きに妥協点を模索していくプーチンの意向が見て取れる。
日本も、この時点では、秋に予定されていたプーチン大統領の訪日を決行して交渉を進める姿勢を示し、谷内正太郎国家安全保障局局長を訪ロさせるなど日露関係の糸をつなぐ努力をし続けた。