悪くない日本のポジション
ここで注目したいのは、日本がそれなりにロシアに対する制裁措置をとり、またロシアも対抗措置をちらつかせるも、結局は、次官級協議の延期以外、日本に対する対抗措置はとられなかったということだ。
なぜ日本は制裁対象から外されたのか? まず、日本がロシアに配慮し、苦渋の決断であまり重くない制裁を課した状況をロシアが評価したことがあろう。更に、日本は隣国であり、ビジネスパートナー、そして技術供与国として重要であり、また地政学的に考えても、日本を完全なる敵に回したくなかったということもあるだろう。
また、ロシアは深刻な制裁措置をとった国や激しい反ロシア政策をとった国に対して報復する必要があったのであり、ロシアに敵意をむき出しにしていない日本は報復対象から外したのだという分析もなされている。
他方、ウクライナ情勢も追い風となり、ロシアの外交傾向が「脱欧入亜」になるのに伴い、特に今年に入り、中露関係が極めて緊密化している。その詳細については別の拙稿をお読みいただきたいが(「最近の中露関係―ロシアの脱欧入亜と両国のライバリティ」)、中露関係の深化は日露関係にはマイナスにならないと考えられる。何故なら、ロシアは国際政治の中で、中国とのみ心中する気はないからだ。
ロシアが、米国との関係においては中国と協力体制を組む一方、中央アジアへの影響力などに代表される地域覇権や経済問題を巡る場面では中国をライバル視し、また決して中国を信頼できるパートナーだと考えていない事からも、ロシアの外交路線が中国一辺倒となることは避けたいからだ。他方、「脱欧入亜」のアジアにはもちろん日本も含まれる。だとすれば、中国のみならず、日本とも良好な関係を築き、かつ中国にも牽制球をちらつかせ続けることが、ロシアのアジア外交、ひいては世界レベルの外交にとって大きな意味を持ってくるはずである。
従来、ロシアは中国と日本を競わせて、極東やシベリアの開発をさせるなど、アジアの二大国の経済力とプライドを巧みに利用しようとしてきた。その考えは、現在政治レベルにも体現されつつあると言えるだろう。
このように、現在、対露関係における日本のポジションは決して悪くない。だが、日本がG7メンバーとして、また米国の同盟国として、対露政策で欧米とある程度の足並みを揃える必要があるのも事実だ。
現状は日本がまるでウクライナのように、欧米・ロシアの選択を迫られているとも言える。日本は両者のバランスをうまくとりながら難しい外交を展開していく必要がある。
だが、いずれにせよ重要なのは、対米追従ではなく、主権国家としての独自の外交を進めていくことであろう。ロシアは日本の一連の対ロ政策から、ロシアに配慮していることをしっかり受け止め、だからこそ日本に対する報復措置もとらなかった。日本が自ら外交を行なう事、ロシアはまさにそれを今後の北方領土交渉再開の条件としているように思えるのである。
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