広州市に出かければ、携帯電話を片手に卸売店街を歩き回るアフリカ系商人の姿をみることができる。彼らは、買い付け仲間や現地の商人らと連絡をとりながら、セレクトショップのディーラーのように、複数の卸売店を回りながら、ワンピース10枚、Tシャツ20枚、ベルト40本と多様な商品を少しずつ買い集めていく(写真4)。この商品や仕入れ先の多角化は中国の市場とアフリカ市場の双方に対応した戦略である。
中国における模造品生産は、『中国モノマネ工場』(日経BP社)に詳しいが、その第一の特徴は圧倒的なスピード感にある。著者である阿氏によれば、山寨携帯(コピー携帯)は、年間にして1000種類以上の新商品が生産される。この回転の速さ、そして模造品の価格の安さは、単に開発費が不要なだけでは実現できない。
紙面の都合上、詳述できないが、中国には「自分にできること」をおこなう零細製造業者たちがおり、それぞれの生産したパーツを、ウィキペディアをつくるようにカスタマイズする市場がある。ここでの製造業者の戦略は、「試しにつくってみる」「まずは激安価格で販売し、売れた商品の値段を後から引き上げる」といった「賭け」と、ダメだとわかったら─製品の高度化や連携の構築を目指すのではなく─すばやく撤退、他製品・業種への転戦をおこなう「逃げ足」の速さで成り立っている。
さて、品質管理がなされない中国製品は不良品が多く、アナーキーな市場では詐欺も横行しており、地下銀行や不法就労等の賄賂の支払いを含めて、流通チェーンの各段階での取引コストは非常に高い。そのため、アフリカ系商人たちにとって、一つの商品、特定の得意先に依存した商売をおこなうことは、非常に危険である。それゆえ、彼ら自身も「試しに仕入れてみる」という商品・仕入れ先の多様化をリスク分散の戦略として実行する。
また低模造品の世界は、製造業者とアフリカの消費者のいたちごっこで動いている。たとえば、アフリカでタイ製の衣料品のほうが縫製がよいと需要が高まると、すぐさまMade in Thailandのタグのついた中国製衣料品が製造される、特定のアプリのマークで偽スマホは判別できると噂が広まると、マークが改善された偽スマホが製造されるといったことである。