この「いたちごっこ」のはざまで交易を担うためには、組織化して大量仕入れを試みるより、有象無象の零細商人たちが少量ずつ買いつけ、スピーディーに販売し戻ってくるという構造に利がある。そして、こうした中国製品の安さとスピード感は、実際にはアフリカの消費者の購買行動にも合致している。
「安かろう悪かろう」を超えて
タンザニアの行商人は「雨が降ってから傘を売る」という。「貧しい暮らしをしている人々は、必要に迫られないとものを買わない」からだ。私は、中古品と中国製品とのあいだで悩んだ友人たちによく意見を求められたが、たいていの場合、彼らには「日曜日に上京してくる母親にテレビを見せたい」といった差し迫った事情があった。結果として選ばれる中国製品の「安さ」は、実際にはタンザニア人の平均的な購買力ではなく、緊急時でも出せる価格に照準があっているのだ。
しかし一方で、私の友人たちは「目の前を通った行商人が持っていたシャツが気に入った」「懐が温かいと何か買わないといけない気がして扇風機を買った」と、偶発的な買い物をかなり気軽に行う。矛盾しているようにみえるが、「計画的にものを買わない」という意味では同じ行為である。
日本では景気が停滞すると、消費を先延ばしにする人々が増える。だが、この延期消費はよくなっていくかどうかは別として、未来がある程度、予測しうる状況であるからこそできることである。タンザニア都市部で正規の雇用機会を得ている者は、人口のわずか2割強である。多くの人々が従事する零細自営業や日雇い労働での収入は極めて不安定で、数カ月後に同じ仕事をしているかさえ不確かである。未来が予測不可能な状況に生きる人々は、「今この時を逃したら、いつまた商品を買えるかわからない」という理由でモノを買うことも多いのだ。
また貨幣への不信、親族等からの無心への対応とあいまって、少額の現金を形に残るモノに変えたいという欲求もある。このような消費行動に対応するためには、必ずしも広告とマーケティングにより特定の商品の販路拡大を目指すことは適切ではない。むしろ、外見上のわずかな違いしかなくても新商品をスピーディーに供給し、商品との「一期一会性」を高めることが、消費の促進につながることも多い。