2022年10月7日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2014年8月28日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――教育的役割の他に、アメリカのミュージアムにはどのような役割があるのでしょうか?

矢口:「アメリカとは?」「アメリカらしさとは?」という、アイデンティティに関わる部分について意識的に語りかける展示が多いですね。たとえば、日系アメリカ人博物館は、一見すると日系人の歴史をただ展示しているように見えます。しかし、実際に何を主張しているかと言えば、「日系人もアメリカ人である」「アメリカ人であるとはどういうことか」などです。良し悪しは別として「ナショナリズムの装置」だと言う人もいますが、そういった側面があるのは否めないでしょう。

 ただ、観光客として我々日本人が訪れた時には、その主張を鵜呑みにする必要はありません。そういう展示を観ながら、アメリカ人にとってアメリカとは何なのかを考えることは出来るのではないでしょうか。

――また、ミュージアムの他に、アメリカには至る所に記念碑があるということですが。

矢口:「メモリアルマニア」という本が出版されるくらい、何でも記念碑にしようという動きが強いですね。

 記念碑は、過去を記憶する行為です。過去の出来事の中でどれを抽出するかによって、その時代が色々な形で反映されます。ですから、一昔前まで、戦争の英雄や、政治家の記念碑が多かった。しかし、現在のように多文化主義的な傾向が強くなると、色々な人達を追悼しようという動きが出てきます。ある団体が特定の人物や歴史の重要性を訴え、記念碑を作るよう政治家や自治体に働きかけがあると、それを否定することはなかなかできないですよね。だから記念碑はどんどん作られていきます。

 そうした流れの中で、カリフォルニア州グレンデール市に「慰安婦の碑」が建立されました。グレンデール市に韓国系アメリカ人がいるというのも一因でしょうが、それ以上に、メモリアルを作るという発想がすぐに出てくるアメリカでは特別なことではないのです。たくさんある記念碑のひとつに過ぎません。

――最後に、どんな人たちに本書を手に取っていただきたいですか?

矢口:最近は中国関連のニュースが話題になることが多いですが、アメリカを理解することはすごく重要なことだと思うのです。大学の授業で学生たちを見ていて感じるのは、アメリカへ旅行したり住んでいたり、新聞やニュース番組などで情報に触れる機会が多いので、勉強しなくてもアメリカのことをわかったつもりになってしまうのではないだろうか、ということです。でも、創造論や原爆に関するアメリカの感覚は、日本の社会状況とは全く違いますから、今後付き合っていく上でアメリカのことをもっと理解する努力は必要だと思います。

 また、アメリカに関心を持っている方々だけでなく、ミュージアムを訪れる人や、関係者にも読んでいただいて、日本のミュージアムがもっと面白くなればと思いますね。

矢口祐人(やぐち・ゆうじん)
1966年、北海道生まれ。ゴーシェン大学教養学部卒業。ウィリアム・アンド・メアリ大学大学院アメリカ研究科博士課程修了。北海道大学助教授等を経て、東京大学大学院総合文化研究科教授。著書に『ハワイの歴史と文化――悲劇と誇りのモザイクの中で』『現代アメリカのキーワード』(中央公論新社)など多数。

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