2024年4月24日(水)

対談

2014年10月6日

木下:入居者すべてを立ち退かせて建て替えるとなったら、莫大なお金が必要です。だから、そういう物件を買った人はラッキーです(笑)。割安で買えて、おそらく退去時にも大金が入ってくるんですから。

飯田:役所の立て替えが必要なときに、自治体としては大枚払って出て行ってもらうしかないわけですもんね。

木下:分譲売却により建築コストが安上がりになったと喜んでいますけど、それこそ行政が意識すべき中長期的な視点が欠落しているように思います。維持費とか、数十年後にやってくるリニューアルについて、公的建造物ほどゴーイング・コンサーンを考えなければいけないはずなのに、総事業費を捻出するためだけの一過性の論理でああいうことをやってしまうのは、単年度で予算を工面する発想なのだと思います。これは全く経営合理的ではありません。

飯田:ディベロッパーの人は「マンションは買うな」と言いますよね。「もし買うのであれば低層中古にしろ、戸建てが買えるのだったら戸建てにしなよ」と言われたことがあります。戸建てだったらダメになったときに、直せれば直せばいいし、直せなくてもいわば自己責任だから諦めがつく。

木下:長期的な維持に関する視点、この発想は地方にいくほど希薄になるように感じています。国土強靭化や公共事業が短期的には工事期間中では地方での経済効果を生み出す反面、中長期的に地方を、特に地方自治体の財政を悪化させているのは、これら施設維持費の問題が大きいわけです。公共投資を撒いている間は、雇用も生まれるし地域にお金も回るのですが、それは文字通りの意味でカンフル剤に過ぎません。ライフサイクル全体でいえば、建設時の4~5倍の維持費がかかる現実に知らぬ間に直面し、みんなで汲々としているのが現状です。

 かつてのように税収が上がり続けているのなら維持費も払えるわけですけど、その維持費で汲々としている状態で、その他行政サービスの拡充との兼ね合いでさらに悩まなくてはならない。医療と福祉でさらに切羽詰まっているなかでのことですから。自治体の人件費さえ地元税収で払えない役所もあるこの時代、せめてハードの整備については発想を変えましょう、と言っているのですがなかなか変わりません。なんだかんだいって経済活性化は事業活動を行う民間中心で取り組むしかありませんが、せめて行政には地域で負担すべき金額だけは軽減していける、行政経営のあり方を考える時代に来ていると思うわけです。(第4回へ続く)

木下斉(きのした・ひとし)
1982年生まれ。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房地域活性化伝道師、熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、一 般社団法人公民連携事業機構理事。高校時代に全国商店街の共同出資会社である商店街ネットワークを設立、社長に就任し、地域活性化に繋がる各種事業開発、 関連省庁・企業と連携した各種研究事業を立ち上げる。以降、地方都市中心部における地区経営プログラムを全国展開させる。2009年に一般社団法人エリ ア・イノベーション・アライアンス設立。著書に『まちづくりの経営力養成講座』(学陽書房)、『まちづくりデッドライン』(共著、日経BP社)など。

飯田泰之(いいだ・やすゆき)
1975年東京生まれ。エコノミスト、明治大学准教授、シノドスマネージング・ディレクター、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書に『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

[特集]地域再生の厳しい現実

  


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