フランス国内を鉄道で旅すると、農地が広がる姿に驚く。フランスが農業大国と言われる所以だ。しかし、フランスが作り出す付加価値額のうち農林水産業の占める比率は2.5%。先進国が農業で生きているわけはないし、農産物の輸出で大きく稼いでいる筈がないことは経済の常識だろう。フランス、イタリアの輸出品目を表-1に示した。藻谷の、「フランス、イタリアを見習って、里山を活かした路線を」という主張は枝野の盆栽輸出と同レベルの経済学的にはありえない主張だ。盆栽を買ってくれる国も量も限られている。経済の解説をする人間が行う主張ではない。データを調べたうえで、主張しているとすれば、もっとひどい。
原発の発電量の落ち込みを、
火力発電所の稼働率向上で賄った
原発が停止したが、エネルギー消費は増えておらず、影響はないと藻谷は主張している。「震災前も今も原油と天然ガスの輸入量は2億5000万キロリットルで変わらないので、エネルギーの輸入代金が増えたのは、安倍政権による円安のせい」というのがその主張だ。原発は震災前全電力需要の30%を賄っていた。停止によってもエネルギー輸入が増えていないという藻谷の主張が正しいとすれば、電力需要、あるいはエネルギー消費が大きく落ち込んだということしか考えられない。
拡大画像表示
輸入実績を見れば、藻谷の説明の間違いはすぐに分かる。震災前2010年に原油は2億1462万キロリットル(KL)、石油製品2795万KL、燃料用の一般炭1億161万トン、天然ガス7001万トンが輸入されていた。13年の輸入量は原油2億1175万KL、石油製品2717万KL、一般炭1億888万トン、天然ガス8749万トンだ。石油系は365万KL減少しているが、石炭は727万トン、天然ガスは1748万トンも増えている。電力需要は大きく落ち込んでおらず、電力業界は原発の発電量の落ち込みを、火力発電所の稼働率向上で賄った。電力業界の化石燃料の消費量の推移は図‐1の通りだ。
景気が低迷していたために、エネルギー消費も低迷しているが、電力業界の燃料消費量増を穴埋めするほど減少しているわけではない。輸入量が増えていないという藻谷の主張の元になるデータは何だろうか。