2024年7月16日(火)

World Energy Watch

2014年10月10日

競争力を失う日本の製造業

 1979年に発売されたハーバード大学のヴォ―ゲル教授の著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が示す通り、80年代には米国の経済覇権を日本が脅かしたが、それは日本の製造業が米国の製造業を脅かしたということだった。図‐4は日米独の製造業の付加価値額の推移だ。80年代から90年代初めにかけ、日本の製造業は米国に迫った。危機感を持った米国の議員は日本製の車、家電製品をハンマーで壊すパフォーマンスさえ見せ、日本製品の対米輸出増を阻止しようとした。

 しかし、米国の危機感はその後霧消した。90年代後半から日本の製造業が全く成長しなくなったからだ。この最大の原因はデフレにより、企業が借入金の返済を優先するようになり、工場設備更新、研究開発投資を行わなくなったからだ。藻谷は日本の製造業の輸出額はリーマンショック前に過去最高だったというが、先月の連載でも示した図‐5の通り世界に占める日本の輸出額のシェアは波を打ちながら下がっている。これは、グローバル化が進む世界のなかで日本の製造業が相対的に競争力を失っていることを示している。

 対中輸出でも日本は残念ながら競争力を失っているということだ。安倍政権が反日の極みであり円安が対中貿易赤字の理由という主張は、経済学の理屈から出てくるはずがない。

日本経済は成長する必要がないのか

 藻谷はまた不思議な議論を展開している。日本の1人当たり国内総生産(GDP)はこの20年間を通し世界20位以内であり、成長には借金と汚染物質が残るから、経済成長の必要はないと示唆しているのだ。ここでも藻谷はどんなデータをみているのだろうか。

 国際通貨基金(IMF)のデータでは、20年前1994年の日本の1人当たりGDPは、179カ国中1位だった。13年のデータでは24位になっている。米国の公務員のために作られている米国中央情報局(CIA)のワールド・ファクト・ブックでは消費者物価指数で調整された購買力平価(PPP)ベースの日本の13年の1人当たりGDPは世界36位だ。CIAのデータでは、まだ韓国を上回っているが、OECDのPPPの1人当たりGDPを示すデータでは、日本は既に韓国に抜かれている。12年の1人当たりGDPは日本35317ドル、韓国38267ドルだ。

 この20年間日本だけ経済成長が止まっている間に、他の多くの国が成長を続けた結果だ。20年前に日本の半分しか1人当たりGDPがなかったシンガポールも豪州も、いまは日本より大きな数字になった。図‐6が示す通り、他の主要国の1人当たりGDPも伸びている。


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