2024年4月29日(月)

World Energy Watch

2014年10月10日

「金融緩和を止められない自分の無力を懺悔」?

 藻谷は、「フランス、イタリアで日本ほど働いているという話は聞いたことがないが、日本のほうが赤字」というが、二国間の貿易を比べて黒字の方が優れているという主張は経済学では意味がない。例えば、日本と中国では黒字の中国が優れている訳ではなく、偶々お互いに必要するものがあったということだ。まして、日本ほど働いていないというのは本当だろうか。どの国でも稼ぐために一所懸命に働いている人ばかりだ。楽して儲けている国があるはずもない。OECDの統計でG8諸国の年間実質労働時間をみると、図-7の通りイタリア人は日本人よりも働き者だ。

 日本人の1人当たりGDPと平均給与の推移は図‐8の通りだ。1997年をピークに平均給与は下がっている。消費者物価指数で調整しても実質10%下落している。いま、毎月のやり繰りを考えずに生活している日本人は何人いるのだろうか。フランスとイタリアではあまり働かず稼いでいると、ありもしない姿を示し、里山を利用すればよいと主張することに藻谷は心が痛まないのだろうか。

 藻谷は「大企業は人員を減らすことで給与の総額を減らし、原材料を安くするために中国からの輸入量を増やして配当を確保する」と言う。藻谷は、一体どういう経営者と付き合っているのだろうか。私の知っている経営者のなかには、そんなことをやりそうな人はいない。もちろん、儲けるためであれば、法律違反でない限り何をやってもよいと考える経営者もいるだろう。しかし、大手企業の経営者を一括りにして論じるのは乱暴だ。

 藻谷は金融緩和を止められない自分の無力を懺悔しなければならないと言っているが、過去20年間の経済の不調と給与の下落はデフレがもたらしたものだ。デフレをまず止めようとする政策を、間違った経済データと思い込みで批判し、無力を嘆くのは滑稽だ。今でもまだデフレが続いていれば、経済情勢は今よりもはるかに悪い状態だっただろう。

 安倍政権を嫌うのは自由だが、経済の観点から根拠なく政策を批判するのはいかがなものか。里山資本主義は「バックアップの手段」と言いながら、現在の経済を「やくざ」「マッチョ」「マネー資本主義」と批判し、里山の恵みを生かす路線を追求できると主張する姿勢は理解できない。

 こんな感情的な主張で、反日と呼ばれるのは安倍首相もたまったものではないだろう。日本経済をダメにし、結果国民を貧しくするのは、藻谷の路線だ。

シェール革命の米国に対抗し製造業の復活を

 日本復活のカギは、製造業だ。再度米国に追いつくべく新技術の研究開発、設備更新に力を入れることで、経済成長を図ることが重要だ。シェール革命の米国に対抗するためには安価で安定的なエネルギー供給も欠かせない。製造業は日本のGDPの20%を稼ぎ、物流などの周辺の業種を含めると、GDPの3分の1になる。地に足のついた経済成長と生活向上のためには、まずデフレからの脱却が必要だ。

 いま、EU委員会も20年にGDPの20%を製造業にする目標を掲げ、新技術支援を柱にEUの製造業復活戦略を実行している。これからの日米欧の競争は製造業が中心だ。政権はデフレ脱却戦略に加え、早く製造業の具体的成長戦略を描くことが必要だ。そうでなければ、失われた20年がさらに長引くことになってしまう。

 

  
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