日本では、麻生首相が6月29日に行った閣僚補充人事に対して批判が渦巻き、政権浮揚にはつながらなかったようだ。タイミングも含め、人事は難しい。「選ばれた人」と「選ばれなかった人」の双方には、当然「選んだ人」に対して感情の化学変化が起き、それで体制が安定したり、逆に不安定化したりする。古今東西、人の心を読まねばならない人事は、政治そのものだ。
政権発足から間もなく半年になるオバマ大統領の人事のさばき方を見ていると、「この人は、あんな風に若くて腹蔵なさそうな姿をアピールしているが、実は相当の策士ではないか」と感じる時がままあった。いや、最近はほぼ確信に変わった。
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初の例はもちろん、大統領選予備選中に民主党候補の指名を争った、ヒラリー・クリントン前上院議員(61)の国務長官への起用だ。これによって、民主党内で野に放っておけば、おそらく厳しいオバマ批判を展開したであろうクリントン氏の反乱の芽を摘んだ。
そして、最近でいえば、連邦最高裁の判事として指名したソニア・ソトマイヤー連邦高裁判事(55)の人選だ。7月13日から上院司法委員会で指名承認公 聴会が始まる予定で、上院本会議が承認すれば、正式に就任が決まる。
この人事をめぐっては、歴代3人目として「女性」が選ばれる、との噂は当初からあった。だが、大統領が候補を指名する直前の5月後半の下馬評リストの中で、ソトマイヤー氏は最も“万馬券”に近い位置にいた。
“万馬券”だった大きな理由は、ソトマイヤー氏がヒスパニック(中南米系)出身ということだった。最高裁判事にヒスパニック、というのは、指名だけでも米史上例がない。人種的少数派の優遇政策や、人工妊娠中絶といった米国社会の姿を大きく左右しかねない問題を判断する最高裁判事として、さすがのオバ マ大統領もヒスパニックの指名はためらうだろう、というのが大方の読みだった。他に穏当な候補が大勢いたことに加え、今も続く共和党保守派の反発・抵抗を 考えれば、まっとうな情勢認識だ。