2024年11月26日(火)

ワシントン駐在 政治部記者が見つめる“オバマの変革”

2009年7月10日

米連邦最高裁判事に指名されたソニア・ソトマイヤー氏   出典:White House

 ところが、大統領はあえて、大穴狙いの人事をした。ソトマイヤー氏は、エール大法科大学院卒の超エリートだが、両親はプエルトリコからの移民だ。英 語も話せなかった父親とは9歳で死別し、母親一人の手でニューヨーク市のダウンタウンで育てられた彼女は、貧しい中を自力で鍛錬してはい上がってきた。

 5月26日、オバマ大統領はソトマイヤー氏を隣に置いて指名の記者会見をした。大統領は、彼女を選んだ理由について、「厳格な知性と、公平な正義感」を挙げた後、「最高裁に座るには、それだけでは不十分」だとして、次のように説明した。

 "Experience being tested by obstacles and barriers, by hardship and misfortune; experience insisting, persisting, and ultimately overcoming those barriers. It is experience that can give a person a common touch and a sense of compassion; an understanding of how the world works and how ordinary people live. And that is why it is a necessary ingredient in the kind of justice we need on the Supreme Court."

 (障害物や壁、そして苦境や不運によって試された経験。そうした壁を前に、主張し、断固としてやり抜き、そして、最後には乗り越える経 験・・・。人に常識的な感性と、思いやりの感覚をもたらすのは、経験です。どのように世の中が動き、普通の人々がどのように暮らしているのか、ということ に対する理解です。最高裁判事に必要なのは、そのような経験なのです。)

 大統領が着目したのは、ソトマイヤー氏が少数派として苦難を乗り越え、今の地位にたどり着いた、というその半生そのものだった。ある意味、初の黒人大統 領だからこそできる人事、との自負があったのだろう。一部の米メディアはこうしたオバマ流人事の本質について「identity politics (出自中心政治)」と名付けた。

 女性でヒスパニックのたたき上げ最高裁判事--。まさにアメリカン・ドリームの象徴のようなオバマ人事に、米国内の最大マイノリティーであるヒスパニック系の人々は沸きたち、大統領選を彷彿とさせるオバマ・コールが西海岸を中心に起きた。経済対策の効果がなかなか実感されず、オバマ政権への失望が語られ 始めた矢先のことだったが、メディアは不満より、オバマ人事の巧みさを繰り返し報道した。アメリカならではの人種や出自の多様性を逆手にとった、親近感で 国民をまとめる一つの手法だといえそうだ。

 それだけではない。保守派の根強い批判キャンペーンにもかかわらず、6月28日付ワシントン・ポスト紙が掲載した同紙とABCテレビの共同世論調査で は、「上院はソトマイヤー氏を承認するべきだ」と答えた人が62%に上った。3分の2近くが大統領の人事を支持したことになり、それは、オバマ政治への支 持と表裏一体のイメージを生んだ。まだ上院の承認前だが、人事は成功したといえる。

駐日大使に指名された
ジョン・ルース氏
出典:Wilson Sonsini Goodrich & Rosati

 一方、日本に身近なオバマ人事といえば、弁護士、ジョン・ルース氏(54)の駐日大使への指名だろう。

 人選は春をまたいで迷走したが、5月末にようやく決着した。ルース氏はシリコンバレーで働く弁護士で、日本との縁はこれまでほとんどない。ワシントンの 日本専門家たちも当初、全員が「Roos who?」と反応した。


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