評価のポイントは、大統領選でオバマ陣営の資金集めに早くから貢献したことだったとされる。駐英、駐仏、駐印大使に指名された人々も大統領選の功労者だっ た。外交経験のない人が多いが、選挙への貢献度から「大統領と電話一本で話ができる」点が、任地国への売り文句だ。皆が電話するとどうなるのか、といった 皮肉も種々聞こえるが、とにかく迎える側としては、「大統領側近」の手腕を今は見守るべきだろう。
とはいえ、こうした論功行賞人事は、「政策より政局」の側面が強いのは間違いない。その政局人事の真骨頂は、駐中国大使の人選で表れた。5月16日に 大統領が発表した、共和党系でユタ州知事のジョン・ハンツマン氏(49)の指名だ。
ハンツマン氏は伝統的な共和党の地盤・ユタ州の知事で、全国レベルでは昨年末までほぼ無名に等しかった。ところが、大統領選での悲惨な大敗以降、新たな 座標軸を見い出せずに迷走する共和党に対し、鋭い弁舌で厳しい自己批判を始め、一気に脚光を浴びた。今年2月には政治系専門紙「ポリティコ」などに「過去に例のないスピードで急上昇する赤丸注目株」などと評され、5月にはオバマ陣営の選挙対策本部長だったデービッド・プルーフ氏が「2012年の次期大統領 選で唯一オバマに挑戦できる危険な男」と論評、恐れられるようになった。
大統領は、そのハンツマン氏を自らの側に引き寄せ、米本土から中国へ遠ざけたのである。むろん、ハンツマン氏の場合、中国に幅広い造詣と人脈がある ことも大きな材料だった。また、まだ若い本人にとっても、注目の駐中国大使として実績を積めば、2016年の選挙でなお戦えるとの計算が働いたようだ。
いずれにせよ、大統領は、まさにクリントン国務長官の起用と同じやり方で、早めに敵をつぶす作戦に出た。相手の心を読んだうえで、自分の陣営に取り込 む、という高度な手法を使って ――。自信がなければこの手法は取れない。筆者が「オバマ大統領は実は、昔の自民党の老政治家と同じぐらい、大変な策士だ」とほぼ確信したのは、このハンツマン人事の舞台裏をあちこちで見聞きしてからだ。
その確信を一段と裏付ける“証言”を先日耳にした。選挙期間中、オバマ陣営の政策立案にかかわった外交専門家で、今も民主党に政策助言をする立場にあ る、自称「熱烈なオバマ・ファン」だ。
「ヒラリーと党の指名を争っていた時期に、オバマのそばに行ったことがある。内輪の会合だったが、ヒラリーのことを話す時のオバマの表情を自分は忘れられない。唇の両端がカーッと上がって、目がヘビのように恐ろしかった。自分は本当にオバマのことを好きで尊敬しているが、この人は怖い人だと悟ったのはこの瞬間だ」
やはり、既存の体制をぶち壊し、「チェンジ」できる政権基盤を作るには、若さとやる気だけでなく、その表皮の下に、強力な心眼と綿密な作戦力が必要なようだ。今の日本にこのぐらい「怖い政治家」が現れるのは、いつのことになるのだろう。
◆筆者 飯塚恵子さんによる記事
北朝鮮の暴走 日米同盟強化のため 今こそ核の傘の議論を
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/425