2024年11月22日(金)

科学で斬るスポーツ

2014年10月31日

速球162kmをうむ下半身

 大谷のどこがすごいのか。もちろん身長193cm、体重90kgの体格に恵まれているが、科学的にみても理にかなっている側面は多い。

 今年のオールスター第2戦。先発マウンドに立った大谷はオールスター史上最高の球速162キロを出し、甲子園球場の大観衆を飲み込んだ。「スピードだけを出しにいった」という通り、投じた23球中半分の12球が160キロを超え、その怪物ぶりを改めて見せつけた。

 しかし、そんな大谷の普段の投球はけっしてスピードだけに依存していない。強い体幹を軸とした、正確な体重移動、リズムやフォームを整えることに集中し、下半身主導の投球を心がけている。常にセットポジションから投げていることからも窺える。フォームが安定せず、修正途上にある投手がよく行うことでもあるが、力みをなくし、同じスピードを出すにしても、90の力ではなく、80の力で投げられることを追究している。とにかく軽く投げているように見える。しかし、この考え方は制球力を高めただけでなく、本人が「想定外」と驚くほどのスピード増につながった。

 元広島東洋カープのトレーニングコーチで、動作解析を行う慶應大スポーツ医学研究センター研究員の石橋秀幸さんは「大谷選手は、肩甲骨周辺が柔らかく、前腕の軌跡がほぼ直線を描く。これは膝が安定し、ぶれていないことを意味する。膝を支えているのが、陸上選手並みに発達した強靭なハムストリングス(太ももの裏の筋肉)だ。大谷選手が160キロの剛速球を投げられる一つの理由は、このハムストリングスの強さにある」と指摘する。

 投球における腰、肩の回転エネルギーは、実は地面から受ける大きな力(反力)を利用する。図1を見て欲しい。投手が速い球を投げられるのは、地面から反力を股関節方向に受けるからだ(図1の黄色矢印)。走り幅跳びでジャンプできるのも、勢いよく地面をけった際に受ける地面の反力のおかげである。

図1 今年の大谷投手の投球フォーム(提供:『野球太郎』編集部(http://makyu.yakyutaro.jp/))

 石橋さんによれば、地面垂直方向には体重の1.5倍、地面と平行方向には体重の0.67倍の力がかかるという。そしてハムストリングスが強ければ強いほど、地面からの大きな反力が使える。


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