もちろん、世界的な金融危機にあって、雇用環境が悪化しているのは日本だけではない。米国の失業率は9.5%に達しており、堅調な景気拡大を続ける中国ですら、沿岸部地域の輸出企業を中心に、内陸部からの出稼ぎ労働者(農民工)2億2500万人のうち、失業者が約2300万人に達したと発表されている。ユーロ圏16カ国の失業率も5月には9.5%となり、2010年には過去最悪の10%台に乗ることが懸念されている。これらと比べれば日本の失業率が低位であることに違いはない。
しかし、日本の失業率が低位でも、安心できるはずがない。たとえば、若年層(15~24歳)だけを取れば、その失業率は9.0%(原数値)に達している。それでも、欧州主要国では、労働市場で経験と知識が重視される傾向が強いために、若年層の失業率が構造的に高く、20%前後の国々もあることと比べれば、まだましと考えることもできる。とはいえ、欧米諸国では中途採用市場が発達しているのに対して、日本の特徴は、新卒枠での採用に漏れてしまえば、その後正社員としての就職余地は狭められてしまうことにある。
そして、新規採用の増減は景気の良し悪しに直結しており、2010年度の新卒採用計画は08年度比▲23%(日銀短観)と厳しい数字になってもいる。かつて、就職氷河期時代に新卒として就職できなかった若者の多くがフリーターとなり、大きな社会問題になっているが、今回も一刻も早く景気が回復しなければ、ふたたび正社員になれない大量の若者を生み出しかねない。
トータルな戦略が問われている
雇用情勢が厳しい現状では、まずは失業増の回避に全力を挙げなければならないことは当然である。しかし、雇用対策だけでは景気と連動する若年層の雇用悪化を完全に食い止めることはできない。雇用を記録的に悪化させないためには、徹底した雇用対策と景気回復策が急務である。そして、政府が、前例のない規模での『経済危機対策』に取り組み、企業の雇用維持を下支えする雇用調整助成金などの雇用対策と景気対策に全力を挙げていることは心強い。
もっとも、景気が回復しても、雇用問題の根治療法にならない。景気が回復して雇用機会が提供されても、それが不安定な非正規雇用の増加であれば、将来の展望が描けるポストにはなりにくい。そもそも、グローバル競争が激化していることで、製造業の生産現場などでは賃上げが簡単ではなくなりつつある職場も多い。
さらに、野党が6月26日、衆議院に提出した労働者派遣法の改正案の問題もある。これは、非正規雇用者解雇の問題の広がりを受けて、製造業派遣と、仕事があるときだけ労働契約を結ぶ登録型派遣を実質的に禁止する案である。すでに対応を進めている製造業企業もあり、その影響はそう大きくはないと見られるものの、労働形態の多様化は企業のみならず労働者に資する面もある。問題があるからといって、一律に規制するよりも、安定した雇用と賃金上昇が見込める職場を増やすことができれば、そちらの方が望ましいのは言うまでもない。
したがって、取り組むべきは、安定雇用につながり、賃金上昇余地もある「良質の雇用」を生み出すことである。これらの条件を満たすためには、雇用対策どころか景気回復があってもまだ足りない。新たな安定雇用の場を大量に生むには、持続性のある良好な経済成長、成長戦略にも後押しされた環境関連等雇用吸収力のある新産業の成長、こちらも雇用吸収力の大きいサービス業の一層の隆盛(含む医療、介護)など、日本の経済産業構造を変革していかなければならない。