「信じられないほど巨大なトラクターを見た途端、この国のやり方は九十九里には無理……」
やる気はいっぺんに失せたが、17歳の気持ちの切り替えは早い。農業研修は取りやめ、好きなスケートボードの技磨きに邁進だ。そこに大怪我という落とし穴があるなんて予想だにしなかったろう。その日はやってきて、入院と相成ったのだが、ここでなんとまあ、デンマーク国家のふところの大きさを痛感するのだ。
「留学生の医療費は全額国家負担、無料だったんです」
いままで考えもしなかった“政治”への関心がにわかに高まるという、“怪我の功名”である。
帰国すると、政治を学ぶために政治経済学部のある早稲田大学を受験した。“デンマーク留学”が評価されてAO入試合格できたのだから、「人と同じようにしなかった」ご褒美だろう。早稲田には6年間も在学したそうで、農業に転じた実家の手伝いに帰郷する回数が増えていたためだった。
1個当たり120グラム。手作業で瓶詰めを繰り返してきた
村井家は野菜60種を栽培、都内六本木などで催す農産物マルシェにも出荷、村井さんは販売に立った。そこで目にしたのが「特産加工品人気」。ジャム、ジュース、伝統調味料などの売れ行きのよさ。
「熟しすぎのトマトでペーストにしては」と相談したマルシェ関係者の反応は芳しくない。そこで閃いたのが、大収穫の落花生。
「あれでピーナッツバターをつくろう」
千葉県は落花生の生産高日本一で、九十九里町でも県内一の八街市に近いこともあって作付けは盛んだ。地元産の落花生で以って地元を再生できるかもしれないと、夢は膨らんだ。
行動は早い。スケートボードで知り合った4人の協力を得て、2013年7月2日、株式会社「ハッピーナッツデイ」を、資本金200万円で設立した。