野バラ荘の住民である杉下、安藤、西崎の3人が「灼熱バード」を肴にして飲むシーンで、西崎は「愛」の意味を問う。
杉下はいう。
「愛は罪の共有である」
しかも、相手に気づかれずにそっと寄り添うように罪を共有する、と。
島の放火事件は、先行きに希望を失った成瀬が犯人であったろう。杉下はそのアリバイを証明する嘘をついた。
杉下もまた、父親が愛人を家に入れて、母と弟とともに追い出されて島の「幽霊屋敷」と子どもたちに呼ばれた廃屋のような住居で青春を過ごさなければならなくなった。
希望なき若者たちは、
「愛」を手にいれられるだろうか
冒頭の野バラ荘から見える高層マンションは、「高いところを目指す」という杉下の希望の象徴だろう。「島」とは希望なき現代の若者たちの現状を表す暗喩(あんゆ)である。
黒澤明監督の「天国と地獄」(1963年)のなかで、高台の高級住宅街にある靴メーカーの常務(三船敏郎)の大きな住宅を、木造アパートの狭い部屋から見上げる誘拐犯人のインターン(山崎努)の姿は時代の象徴だった。部屋は夏暑苦しく、冬は寒い。
高度経済成長にかけあがっていく日本は、職人からのし上がった被害者の常務がいる一方で、社会に不満を抱く若者の存在を否定できなかった。
現代の若者たちの希望なき状況はかつてよりも広がっている。彼らは「愛」を手に入れられるだろうか。
杉下は元警官の高野に自分がガンの告知を受けて、余命が半年であると話す。
そして、自分が知っている野口夫婦の事件の真相を全て話すと。
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