2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2014年12月5日

アメリカの拡大と大統領の「分類」

 本書は英語の原題が「Presidential Leadership and the Creation of the American Era」 であるように、アメリカの時代を作った大統領のリーダーシップをナイ教授流に分析したものである。詳しい内容や分析の紹介は本書に譲るが、一口に大統領といっても、そのリーダーシップのありようは一人一人、時代ごとにそれぞれ大きく異なっている。アメリカはリーダーシップ論が盛んな国であり、リーダーに対してもよく「変革型」とか「取引型」などという分類がなされるが、ナイ教授が例にひいているトルーマンは、在任中に変革型の目標を設定したが、スタイルは取引型を使う傾向があるなど、同じ大統領でも両方の要素を持っている場合もある。ナイ教授はリーダーの目標とスタイルを分けて考え、さらにどんなスキルを備えていたのかもあわせて分析した。

 筆者はアメリカや外交の専門家ではないが、本書で非常に印象的だったのが、20世紀にアメリカがどんな拡大を遂げてきたのか、ナイ教授がその拡大期を大統領ごとに分類した点だ。

 本書の分類を引用すると

1 グローバルな勢力均衡体制への参加   TDR、タフト、ウイルソン
2 第2次大戦への参戦           FDR
3 封じ込めと海外での恒常的なプレゼンス トルーマン、アイゼンハワー
4 唯一超大国に             レーガン、父ブッシュ

 といった分類になっている。こうした示し方が「なるほど、アメリカの20世紀はこうとらえれば良いのか」いう視座を与えてくれる効果は非常に大きい。

 また本書の中盤にある「反事実的歴史」という項目では、アメリカの歴史の「IF(イフ)」をナイ教授なりに分析している点も興味深い。もし本書で焦点を当てた8人が大統領になっていなかったらどうなっていたか、ということを推論しているのだが、アメリカや世界の歴史は大きく違っていただろうということがよくわかる。私が出ていた授業でもこの部分の「さわり」が紹介されていたが、本書にまとめられた内容はより充実した内容となっている。

 私の受けた授業でナイ教授は扱わなかったが、本書の第4章「21世紀のリーダーシップ」は、まさに21世紀に現れた2人の大統領、ジョージ・W・ブッシュとバラク・オバマの「中間評価」を知るのに有用だ。最終的な評価は後世の歴史家の言を待たなければならないが、本書の指摘は現代アメリカの大統領像を理解するうえで、多くの示唆に富む。よくある単なる講義録ではなく、授業をベースに大幅な加筆を行い、新たな分析が多く加わっている。日本の読者への配慮もゆきわたっており、最後の一行まで内容が詰まっている。読み始めると終わりまで気の抜けない重厚なアメリカ解説である。

  
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