科学で斬るスポーツ

2014年12月4日

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 膝の抜きとは何か。稽古が十分な横綱は、突進してくる相手に足を踏み込み、膝の力を抜き、重心を落としていく。この重心の落とし方が絶妙であればあるほど、地面から大きな力「地面反力」を受けることになる。物理でいう「作用と反作用の法則」だ。体がかたいと十分に落とせず、しかも重心を最大限、落としたところで相手を胸で受け止めれば、それだけ大きな反力を引き出すことができる。一見、体が立っているように見えるが、相手の突進力を上に押し上げることで、白鵬の足の裏には自重だけでなく、相手の体重もかかる。これによって強力な地面反力がさらに大きくなっていく。

 小田教授は、「横綱はインタビューで、踏み込みがいいというが、これは膝の抜きが良かったということ。重心を落とせる筋力と、バランスが不可欠だ。稽古を積んだ力士は、このコツを体得している」と強調する。

四股、鉄砲の基本動作がバランス、うまさを引き出す

 これを難なくこなすのは、白鵬が胴長短足の理想的な体形に加え、質、量ともに群を抜く練習量の裏付けがあるからだ。野球でいうキャッチボールやトスバッティングのような基本練習「四股(しこ)」「鉄砲」「股割り」「すり足」などの反復をけっして怠らない。「組んでよし、離れてよし」という柔らかさと、攻撃の両面性を持つ白鵬の原点になっている。

図2 相撲の四股動作(出典:日本相撲協会HP「相撲健康体操イラスト図解」(http://www.sumo.or.jp/pdf/kyokai/sumo_taiso.pdf))より
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 基本の稽古は、大型化が進む力士の筋力を向上させるだけでなく、柔らかさを生む。何より大事なのは、下半身と上半身をうまく連動させるための「バランストレーニング」であることだ。おろそかにはできない。

 「四股」は、両足をほぼ180度開き、高く振り上げた足を降ろすと同時に、重心を落として、地面を強く踏む動作。四股を踏むという。これは、お尻の肉を鍛えるとともに、股関節周りの柔軟性と安定性を得るための練習だ。

 「鉄砲」は太い木柱を腕で押すトレーニングで、腕力向上を狙うように見えるが、実は押しと足の運び方、つまり上半身と下半身をバランスよく使う「型」を覚えるものである。

図3 相撲の股割り(出典:日本相撲協会HP「相撲健康体操イラスト図解」(http://www.sumo.or.jp/pdf/kyokai/sumo_taiso.pdf))より
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 「股割り」は、足を一直線に広げて伸ばすトレーニング。下半身、特に股関節や大腿の内側の筋肉の柔軟性を高め、けがを防ぐ狙いがある。股関節の柔軟性を高めることで、膝、足首、腰などの負担が軽減する。

 「すり足」は、中腰姿勢で、足を地面にスルようにして前進するトレーニング。「右脚と右腕」「左脚と左腕」を同時に動かすのがコツ。膝、股関節の筋力と下半身と上半身を連動させることを習得する。

 これらのトレーニングは昔に確立された伝統的な練習だが、実は股関節などの可動域を広げ、柔軟性とけが防止、バランスを確保する意味で科学的なのである。

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