モンゴル勢の強さの秘密
白鵬の強さは彼がモンゴル出身であることも大きく関係している。鶴竜、日馬富士の横綱、人気急上昇中の関脇逸ノ城を含め、九州場所の幕内力士42人中10人がモンゴル勢。今やモンゴル勢なしに、大相撲の人気は考えられない。
彼らが強いのは、日本より恵まれない環境で育った「ハングリー精神」だけではない。骨太で、筋肉が多く、子どものころから馬にまたがる機会があるため体のバランスがよい。さらに伝統のモンゴル相撲の環境要因が大きい。白鵬の父親はモンゴル相撲の永久横綱で、メキシコ五輪レスリング銀メダリストでもある。
大相撲と、どこが違うのか。論文「モンゴル人力士はなぜ強いのか」(「ユーラシア」、蓮見治雄・東京外大名誉教授)によると、大きな違いは土俵の有無。大相撲は直径5.5mの土俵の外にでると負けになるので、「押し出し、突き出し、寄り切り」が主な決まり手になる。これに対しモンゴル相撲は土俵がなく、相手を倒す(膝から上のどの一部も土についたら負け)ことで勝敗が決着する。必然的に引き、突き、足技、投げ技などが勝負手になる。
モンゴル勢の決まり手は36種類(大相撲の決まり手は82種類)あり、このうち大技は10種類だが、「小さい技は三歳牛の毛の数ほどある」と言われている。それらの技をよく見ると、組み手争いから始まり、組み手の崩し方、引き技、突き技、かつぎ技、投げ技など多彩なのである。
しかし、モンゴル相撲の優れた力士の大半は、2、3種類の技で勝ち進んでいる。「技を器用にこなすより、自分にあった技を習熟することの方が優れている。大相撲で言えば、型を持った力士と言える」と強調する。
こうした得意の型を持ちやすいモンゴル勢に対し、日本勢は上位陣でも絶対的と呼べる型がない。大相撲解説者で、「技のデパート」と異名をとった舞の海秀平さんは「日本人力士は絶対的な自分の型がない。それがここぞというときに勝てない理由だ」と強調する。
論文の中で、蓮見名誉教授は、モンゴル力士に伝わる遺伝子(DNA)をこうまとめる。「相撲は力が強ければいいというものではない。また、腕力でとるものではない。知力や俊敏さも必要だ」ということを受け継いでいる。
そして、「上半身は前頭で、足腰は小結だ。けれども全体で横綱です」と語った白鵬の言葉を引用し、その知力の高さ、考える相撲の伝統も絶賛する。