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2014年12月4日

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逸ノ城は白鵬を抜けるか?

 白鵬と同じ、モンゴルの遺伝子を引き継ぐ逸ノ城は、白鵬を抜けるのか。多くのファンの関心事でもある。モンゴル勢初の遊牧民出身で、小さい時から馬のミルクを毎日2リットル飲み、丸太をトラックに積み込む作業で上半身、下半身を鍛えた。2010年の来日時にすでに135キロの巨体。今は193cm、199キロまで大きくなった。強みは太もも周りが92cmもあること。鳥取城北高校時代から200kgもあるタイヤを裏返すトレーニングで鍛えたという。

 秋場所(9月場所)では、1横綱2大関を倒し13勝の快進撃を続けた時は、立ち合い時に白鵬が得意とする「相手に胸を合わせる」ことができていたという。

 小田教授によれば、「胸を合わせるためには、膝を抜き、重心を落とすことが必要。逸ノ城は長身で、一見、腰高に見えるが、最初の位置から重心を落として、つまり膝を抜いて、落下を支えた時、体重がある分地面反力が上方向に突き上げる。これで相手はどんなに頭をつけても吸収されてしまう。地面反力の使い方が白鵬同様にうまい。ここからは投げでも、押しでも、突き上げでも何でもあり。すでに横綱相撲。剛ではなく、柔の技」と指摘する。

 地面反力を活用できるのは、あの太もも裏の筋肉「ハムストリングス」だ。

 秋場所終了時に逸ノ城は「体が自然に動いた」と語っていたのは、上記の地面反力をうまく使えていたことを意味する。しかし、11月場所は関脇に昇進したこともあるが、立ち合いが甘く、簡単にかわされ、あっけなく土をつく場面が多かった。

 得意の右四つに持ち込んでも、9月場所のような地面反力を有効に使う前に、体制が崩れてしまうケースが目立った。立ち合いの「俊敏性が足りない」のが要因の一つと言われる。場所前に帯状疱疹に見舞われるなど本調子でもなく、稽古も不十分だったのだろう。

 9月場所に横綱相手に注文相撲(立ち合い時に正面から当たらず、相手の突進をかわす取り口)について批判が集まるが、「相手をしっかり見ていないとああいう相撲はとれない。新入幕力士はガチガチで突っ込めばいいとうものではない。状況や動きを見てとれる余裕が大事」という見方もある。

 落ち着き払った風格は、みるものを楽しませてくれる。白鵬並の努力家でもあり、ポスト白鵬の中心的な存在になるのは間違いない。

 日本人力士も全く逸材がいないわけではない。11月場所で、白鵬から金星をとった高安のほか、妙義龍、遠藤、琴奨菊なども横綱の可能性はあり、注目したい。

 今年3月場所で、引退した元大関琴欧洲は「大相撲は、基本練習の反復の精神的修練だけでなく、科学的な稽古を取り入れるべき」と朝日新聞のインタビューに答えている。特に日本の力士は、自分の育った環境がモンゴル勢などと違うことを自覚した上で、科学的なトレーニングを積む必要があろう。琴欧洲の苦言は、納得出来る面は多い。相撲は、重心のスポーツであること、地面反力の有効活用することが大事であること、バランスの崩し合いであること、柔らかさ、俊敏性など身体を知り尽くすことが心技体の充実につながることなど科学的な視点が重要だからだ。この科学的な目を持ち、稽古を積んでいくことが大相撲には必要な時期に来ている。

  
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