しかし、「ダビンチ」を使用した前立腺ガンの摘出手術が米国で約70%を占め、韓国や中国が積極導入を進めるなどマーケットの占有が拡大している。厚労省も昨年4月から開始された「高度医療評価制度」によって、「ダビンチ」による混合診療(保険診療と自由診療の併用)の一部を認め始めたが、日本製の手術支援ロボット開発を含め先端医療サービス分野で、日本は後進国になりつつあると言わざるを得ない。
高い安全基準で自らを縛る企業
ロボットの実用化で、もう一つ高いハードルとなっているのが、企業サイドが自主的に課す安全基準の壁だ。特にPL(製造物責任)法に伴う企業イメージの低下や賠償責任といった社会的影響の大きさから、国が安全基準を定めないことを理由に、企業が製品化に二の足を踏むケースが多々見られる。
「安全基準が定まらない限り、事業化は難しいと大企業は言うケースが多いが、実際は経営者が市場開拓する気概とリスクを取ってお客さんと一緒に基準を作る気持ちがなければ、実用化は難しいのでは」。
二足歩行ロボットをはじめ、中・大型の生活支援ロボットで実績を積むロボットベンチャー企業のテムザック(福岡県宗像市)の高本陽一社長は、生活支援ロボットの実用化が試作機止まりで進まない理由を、安全の自主基準にありと指摘する。
たとえば、同社が留守番ロボットとして累計で1500台を販売している「ロボリア」のケース。自社ブランドでの販売を目指す同社は、大株主である三洋電機に家電の安全基準に基づいた試験を委託した。何しろ、自力で動くロボット家電など日本の製品としては前例がない。電磁場の基準や掃除機など家電製品で行なう挟み込みテスト、一定量の水をかけ続けて発火しないかというテストなど、30項目弱、100回を超える安全実験を実施。「三洋さんだからやってくれた」と高本社長は感謝するが、結果的に当初予定から半年遅れの市場投入となった。
「安全基準や社会的なルールが決まらないと、生活支援ロボットが世に出ないのは問題」。今年4月から5年間の予定で「生活支援ロボット実用化プロジェクト」を推進する経産省。所管する産業機械課の担当官も、大手企業をはじめとするロボット関連企業の腰の重さを指摘する。
実際、早期の商品化を目的に経産省の「実用化プロジェクト」に参加するトヨタでさえ、「生活支援ロボットを受け入れるための社会制度づくりを、産・官・学で協力して取り組むことが必要」(広報部)というスタンスで、自らフロンティアになることに慎重姿勢だ。
「必要なルールや基準の整備までしなくとも、社会通念として一般が認めるような形式認定的な自主基準でメーカーサイドは世に出す決断をしても良いのでは」。この担当官は、最終的な事業化、実用化は経営判断と指摘する。
唯一、自力で市場を開拓した企業がある。お掃除ロボット「RFS1」を開発した富士重工業だ。このお掃除ロボットを開発したのは、富士重工業・クリーンロボット部部長の青山元氏。02年に事業部を立ち上げた青山氏が、まず苦労したのがロボットをエレベーターに乗せること。建築基準法ではロボットのことを想定していないため、認可を得るために東京都の建築指導課に出かけ、実地で積み重ねた実証データをもとに説得を繰り返した。