ルーブルが日に日に最安値を記録する中、ロシア経済の悪化は誰の目にも明らかになっていった。当局は「ルーブル下落は米国がロシアに仕掛けているハイブリッド戦争である金融戦争の結果」などという見解をも発表しているが、景気後退は明らかにロシアの経済の実情に起因している。
ウォッカの値上げは認めない
そして12月4日にはプーチン大統領の恒例の年次教書が発表された。2014年の年次教書では、原油価格の危機を反映してか、毎回必ず言及される石油や天然ガス部門に関する言及がほとんどなく、クリミア編入の正当性と歴史的成果を高らかと掲げ、ウクライナ経済を支援し続けることの重要性を強調した。
また、欧米による制裁を批判し、仮にウクライナ危機がなくとも、欧米は何らかの制裁をしてきたはずだとさえ主張し、欧米が意図的にロシアの発展を妨害していることを示唆した。そして、国外に逃避した資本がロシアに戻るならば、あらゆる意味でその詮索をしないことも約束し、ロシアに資本を戻すことも呼びかけた。加えて極東・太平洋沿岸地域の活性化と北極圏開発に更に力を入れていくことも約束し、欧米の制裁にも負けず、広く発展するロシアの将来を描いて見せた。
それでもルーブル安が止まらず、プーチン大統領は「ルーブルへの投機的な攻撃」を取り締まることを約束し、メドヴェージェフ首相は国民に対してパニック回避を呼び掛け、両替や投機的行為などに走らないよう呼びかけたが、ルーブルの下落は止まらなかった。12月半ばには、一時、1ドル=80ルーブルを超える歴史的安値を記録するなど、ルーブル建ての資産価値は50%程度減少してしまった。そこでロシア住民は預貯金が紙切れを化すことを恐れ、ルーブルの投げ売りや不動産、車、電化製品などの購入に走った。両替屋からユーロやドルが消え、モスクワ近郊の不動産や車、iPhoneやiPadなど人気の電化製品は品切れ状態となった。
他方、ルーブル下落と高級品の品薄化により、ロシアでの値上げも顕著になった一方、北欧の家具店IKEAが店を閉めるなど、外国企業はルーブルでの取引を避けるようになった。ルーブル安でロシア人が海外旅行に行けなくなった一方、中国など主にアジアからのロシアへの観光客が激増するなど皮肉な状況も起きている。
ただ、高級品の値上げがどんどん進む中、プーチン大統領はウォッカの値上げは認めない方針を貫いている。ロシア人にとっての「大切な息抜き」の機会まで奪えば、国民が怒りで爆発すると危惧しているに違いない。その背景には、ソ連の最後の指導者であったミハイル・ゴルバチョフが改革の手始めにアルコール撲滅キャンペーンを行なったが、国民の大きな怒りを買っただけで失敗に終わったことを教訓にしているのかもしれない。
そして、ロシア国民は本当に生活が脅かされたらデモに参加すると言っている者も少ない中、忍耐を続けている。