2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年1月22日

 台湾政治の風向きの変化は、台湾人の間で、このまま台中経済関係が深まると中国に飲み込まれかねないという危惧が強くなったことが一つの大きな原因です。また、香港のデモへの中国当局、香港当局の対応は、台湾人の中国に対するイメージを決定的に悪化させました。そして、今後、民主主義の台湾しか知らない世代が増える一方ですから、中国共産党の独裁体制への忌避感は、ますます強まるでしょう。こうした変化は、根が深いものです。

 ただ、今後、緊張が高まり、それが軍事衝突にいたるか否かは、中台双方の出方によります。今のところ、中台双方ともに軍事衝突は避けようとするのではないかと思います。台湾人の大多数が独立宣言ではなく現状維持(つまり事実上の独立状態)を支持しているので、次期総統の最有力候補である蔡英文・民進党主席も、独立問題には慎重な態度をとることになるでしょう。他方、国民党も、従来よりも中国と距離を置く候補を出さざるを得ないでしょう。そして、大陸側も、軍事攻撃などで台湾住民全体を敵にしてしまうことを避けようとするでしょう。となると、結局は大事には至らないであろう、ということになりますが、ものには勢いというものがあります。したがって、台湾海峡で危険な状況になる可能性は、決して排除されるわけではありません。

 李登輝総統が選ばれた1996年の選挙の時には、中国はミサイルを台湾近海に撃ったり、軍の上陸部隊の演習をしたり、力の誇示をしました。しかし、米空母機動部隊が台湾海峡に急派され、中国は引込まざるを得ませんでした。中国は、この事件の後、軍備拡張を加速してきました。2016年には中国の軍事力は1996年より遥かに強力になっています。他方、中国の国際経済関係もここ20年でずっと深まっています。

 マニングが言うように、中国としては、経済的成功を重視するか、台湾解放という主権の回復を重視するかであり、それに伴うコストや制約も考慮して出方を決めることになるでしょう。その際には、日米の動向が大きな考慮要因であり、中国の決定に対して影響を持ちます。米国の「アジアへの軸足移動」が試され、日米安保も試されることになります。日本が昨年、集団的自衛権の行使を容認したことの大きな意義の一つは、台湾海峡への日米の共同の対応を強化させ得る点にあります。日米ガイドライン改定では、それを踏まえた対処がなされることが期待されます。

  
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