それに部品などもほぼ100%現地調達で、為替フリーの強固な経営基盤を確立している。ただ、最近は未開拓のアフリカ市場を中心に「中国メーカーが安値攻勢をかけており、安閑とはしておれない」(同)のだ。対抗策として同社が検討しているのが低価格なアフリカ専用モデルの開発や、地域ごとに多岐にわたっているモデルの統合などによって量産効果を追求し、コストの引き下げを図ろうというものだ。いってみれば行き過ぎた専用モデル化の見直しだが、求める方向は同じかもしれない。
一方で、新興国市場を狙った低価格モデル開発の動きは工作機械など生産財でも始まっている。その背景にあるのは設備投資の減速による国内市場の大幅な落ち込みに加えて、新興国市場での韓国や台湾、中国といったアジア勢の台頭にある。
森精機製作所は年内にも価格が現行機種の半分程度となる「1000万円を切るマシニングセンターやNC旋盤を販売する」(業界関係者)ようだ。「性能は多少落ちるようだが、故障しにくいなど信頼性は十分担保されている」と関係者は話す。
どうやって低価格でありながら信頼性などが担保できるのか。その理由は森精機独特の海外メーカーとの提携戦略にある。同社は欧州最大の工作機械メーカー、ドイツのギルデマイスターと業務・資本提携し、ギルデ社から低価格品のOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受けて対応することにしたのだ。
また自動車の車体などを一体成形する大型プレス機械メーカー、エイチアンドエフ(H&F、福井県)も廉価版プレス機の開発に乗り出した。
「国内市場は自動車メーカーに設備の過剰感があり、今後、伸びはそれほど期待できないが、中国やインドなどの新興国市場はモータリゼーションの進展に伴って能力増強投資は拡大する」(宗田世一社長)という考えによるもので、新興国市場の開拓には中国や韓国勢と渡り合える廉価モデルの投入と、アフターサービス網の構築が不可欠というわけだ。
廉価版を投入しつつ先端開発を進めよ
廉価モデルの開発は緒に付いたばかりだが、「設計の徹底した標準化と、部品の共通化を進め、低コストを実現したい」と宗田社長は意気込む。さらに油圧機器などキーコンポーネント以外の部品についてはできるだけ汎用化を進め、本格的な海外調達も検討していく計画だ。
また、海外アフターサービス網については米国2ヵ所のほか、英国、タイ、中国、インド、マレーシアと7拠点を開設しているが、「今後は日系自動車メーカーの進出や増設が予想され南米地区への開設も検討したい」(宗田社長)という。
ではこうした新興国の中間層(いわゆるボリュームゾーン)を狙った製品開発の動きは日本メーカーの今後のモノ作りにどのような影響を与えていくのだろうか。そこで見えてくるのは開発、生産の海外移転に伴う「国内拠点の空洞化」だろう。だが一方、国内拠点はマザー工場、マザー開発拠点として生き残るとの見方が強いのだ。
現に、取材したリコーや富士フイルムにしても製品のほとんどは中国など海外工場で生産されているほか、「開発についてもかなりの部品が現地の開発拠点に移管されている」。だが、「国内拠点についてはよりハイテク、ハイエンドな製品開発や、新たな生産技術を確立する場として重要性は一段と増している」(今野隆哉リコー室長)と強調する声が強かった。
いってみれば国内では将来の成長を見据えた次世代自動車やロボット、太陽光発電システムの開発・実用化などの布石を打っていく必要があるのではなかろうか。
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