2024年12月3日(火)

World Energy Watch

2015年3月18日

 欧米が製造業に成長を託すのは、製造業の作り出す一人当たりの付加価値額が相対的に高いからだ。製造業が成長すれば経済成長に好影響が生じる。日本も同じだ。製造業のGDPに占める比率は約20%だが、一人当たりの付加価値額でみると金融・保険など一部の業界を除けば他の多くの産業を上回っている。製造業が成長すれば、企業買収なども活発になり仲介業務を行う金融業にも良い影響が生じるし、物流などの関連産業も潤うことになる。

 その製造業の収益に大きな影響を与えるのは電気料金なのだ。これはどの国でも変わらない。再生可能エネルギーの導入に力を入れたドイツ、スペインなどの欧州諸国では電気料金が大きく上昇したことから、欧州委員会、各国政府ともに電気料金と再エネ抑制策に舵を切っている。

 再エネがもたらした問題は、電気料金上昇だけではなかった。いつも発電できない不安定な再エネには、再エネが発電できないときに発電を行うバックアップのための火力発電設備が必要だ。再エネ設備が増えても、その分火力発電設備を減らすことはできない。太陽光も風力も発電できない時には火力を利用しなければ停電してしまう。

 スペインのように最大電力需要の2倍以上の発電設備を保有する国は、再エネからの発電がない時でも火力が発電を行うことができるので、直ぐに困ることにはならない。しかし、英国のように最大電力需要に対し発電設備の余剰が少ない国は停電のリスクに直面する。

自由化した英国の悩み

 再生可能エネルギーの導入が増えても、バックアップするための火力発電設備が維持されていれば停電の可能性はない。総括原価主義であれば、投資額も電気料金の原価の対象になるので、電力需要予測に基づき発電設備が建設されるが、欧州のように自由化された市場では、将来の収益予測に基づき事業者が建設する発電設備を頼るしかない。

 電力事業の将来の収益予測は極めて難しい。発電方法が多岐にわたり、例えば、火力の燃料でも石油、ガス、石炭と選択肢があるからだ。プラントが運転を行う数十年間の燃料費を予測することは不可能である。温暖化対策のために二酸化炭素の排出量も考慮しなければならないとなると、どの燃料に競争力があるか分からない。競争力のない発電設備は電力需要が増加する夏あるいは冬の一時期しか運転することができない。投資した設備に競争力がなく、一年のうち一時期しか運転できなければ、赤字だ。

 自由化した市場では、発電設備に投資する事業者が現れなくなる。日本でも50kW以上の契約者への販売は05年から自由化されている。しかし、大型発電設備を建設する事業者は大阪ガス以外現れなかった。新電力で大型の発電設備を保有しているのは大阪ガスの泉北火力、大王製紙、王子製紙程度だ。製紙会社は自社工場での使用が目的であり、外販はほとんどない。新電力のシェアが増えないのは、将来の収益性が見通せないので新規設備の建設がないからだ。16年に実施予定の家庭用の自由化による新ビジネスを期待し、新電力への登録企業は600社近くに増えている。しかし、このなかで発電設備を建設するリスクを取ることができる企業は限られるだろう。


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