2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年4月3日

 シシはジャーナリストや世俗的活動家を投獄してエジプトの名声と利益を損ねているが、ここから脱却させる方法は、エジプトを無視するのではなく、その力と誇りを取り戻すのを助けることである、と述べています。

出典:David Ignatius,‘America is the ally that Egypt needs’(Washington Post, February 26, 2015)
http://www.washingtonpost.com/opinions/america-is-the-ally-that-egypt-needs/2015/02/26/efe7eeb0-bdfd-11e4-bdfa-b8e8f594e6ee_story.html

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 今回の米国の対エジプト政策転換は、まさに論説中の米高官の言葉通り、理想主義が現実政治に凌駕された事例です

 2011年1月、「アラブの春」でムバラク政権が倒れ、その後、ムスリム同胞団のモルシ大統領が誕生しましたが、2013年、クーデターでモルシ政権が倒され、その首謀者シシが選挙を経て2014年大統領に就任しました。ムスリム同胞団はテロ組織とされ、エジプトの刑務所は令状なしで逮捕された同胞団員やシンパ、それ以外の政府批判者で一杯です。確かに人権侵害は酷いですが、シシ大統領の権力基盤は強固になってきています。

 シシ大統領と同盟関係になるのならば、ムバラク打倒をサウジの強い反対を無視して容認したのは間違いであったとも言えますが、国際政治は国内の政権基盤の強弱を含む現実の力関係に基づいて展開されざるを得ません。

 エジプトのスンニ派アラブ世界での重要性に鑑み、今回の米国の政策展開は、中東地域の安定のためには良い選択でしょう。

 さらに、プーチン大統領が2月にエジプトを訪問し、両国間でロシアのガス・石油、さらに武器を取引する協定が結ばれました。米・エジプト関係の悪化を受けて、ロシアがエジプトとの関係を強化し、反欧米に誘いこもうとした形跡があります。サダトによる政策転換まで、ソ連はエジプトで大きなプレゼンスをもっていました。その再来をプーチンが望んでいたことは十分想像できます。今回の米国の決定は、そういうことにならないための歯止めにもなるでしょう。

 シシ政権はムスリム同胞団をテロ組織に指定し、さらにパレスチナのハマスまでテロ組織としています。ムスリム同胞団やハマスはアルカイダやISとは違う。こういうシシ大統領のやり方は、普通のイスラム主義者をアルカイダなどに近づけてしまう恐れがあります。これは一つの懸念材料です。イグネイシャスが「人権侵害への批判は続けるべきだが」と留保をつけているのはもっともなことです。

  
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