英語教育学に、私も半分は所属していますので内部批判になってしまいますが、英語教育政策に関する研究に関しては決して肯定的な評価をしていないのが正直なところです。ただ、それは英語教育学のクオリティが低いという意味ではありません。英語指導法やテスト理論、あるいは言語習得や外国語コミュニケーションの理論など多くの領域では大変優れた研究がなされています。しかし、残念ながら、政策の意思決定や社会の実態がどうなっているのかについては英語教育学には大した蓄積がありません。そこのギャップを埋めたいなと。心ある英語教育学者は、このギャップをよくわきまえているので、専門でもないのに社会の英語実態や政策のありかたにまで口出しするようなことはしません。これは誠意のある研究者の態度だと思うんです。でも、必ずしも全員がそうであるわけではないのが実情です。
また、中学高校教育現場の教師の方々が本書に書いたような実態を知っていれば、現状のように英語教育学者が社会の実態について一方的に教師へ教えるという不当な権力関係が改善されるかもしれません。そうすることで、言説が良い方向へ変わっていくのではないかと期待しています。
そうは言っても、英語教育学の大先生たちの意識を変えるのは難しいでしょう。英語教育学の中で、私のような社会科学的なアプローチの研究は珍しいんです。だからこそ、本書を出すことで、現在の大学院生や学部生たちに、社会科学的な英語教育研究も可能なんだというロールモデルを果たすことができれば、すぐには変わらないかもしれませんが、10年後には変化することを期待しています。
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