ここ数年、ポーランドの町中を歩くと語学学校の宣伝がいたるところで目に付く。この国では小学1年から英語の授業が始まる。その上、多くの親は学校の授業だけでは不十分と、稽古事としても習わせるため英語学校に通う子供の数は年々増えている。なぜ親がこれほど子供の英語教育に力を入れるかといえば、切実なこの国の経済事情が背景にある。
某私立中学生が3年間で使用する英語の教科書の一部
(Yuki Nagare-Sornek)
(Yuki Nagare-Sornek)
2004年にポーランドは他の旧東欧諸国と共にEUに加盟した当初から労働市場を開いた数少ない国の中にイギリス、アイルランドがあった。単純な肉体労働でもこれらの国で働けばポーランドの数倍は稼げ、またEU市民は手厚い社会保障や様々な手当てもイギリス、アイルランド人と同様の恩恵に与れるとあって、多くのポーランド人が仕事を求め新天地へ移動したのだ。初期は現地人がやりたがらない、肉体労働に従事する者が大半を占めた。彼らが国に残してきた家族に送金するおかげで国内経済は活気付き、また失業率も低下した。
その後、肉体労働者に続き高学歴者の移動も始まった。1980年代前半のベビーブーム以降に生まれたこの国の若者は、高学歴な者が多い。IT、エンジニア、医者などの層もEU内では自国で取得したライセンスが認められるため、言葉に不自由しない者はEU諸国へ躊躇なく移動するようになった。大学を卒業したが、思うような仕事に就けなかった若者たちも国に残って不安定な非正規雇用でなおかつ低賃金で働くよりは、賃金の高い外国で働こうと考えている者が大多数を占めるようになった。