今年4月、自民党の教育再生実行本部はグローバル人材育成のため、大学の入学試験や卒業認定、国家公務員の採用試験において、主として北米の大学や大学院に留学するための英語力を測定するTOEFLの活用を提言。これを受け、政府の教育再生実行会議は5月、ややトーンダウンしたもののTOEFL等の外部試験を大学入試や卒業認定に活用することを進めるとし、さらに、小学校での英語を抜本的に拡充するとした政府提言を発表した。また、楽天をはじめ社内公用語を英語とした企業もあり、経済界も英語が使える人材を求めている。
こうした動きに対し現在、大学ではどんな英語教育が行われているのか。小学校での英語の早期教育は有効なのか。『英語教育、迫り来る破綻』(ひつじ書房)の著者のひとりで、言語の認知科学が専門の大津由紀雄・明海大学外国語学部教授に話を聞いた。
――”グローバル化”の旗印のもと自民党案、政府案ともにTOEFLの活用を勧めています。ただ、大学などでTOEFLやTOEICなどに時間を取られ過ぎると、英語だけができて、専門的知識や教養のない人材が育ち、本末転倒な気がします。
大津由紀雄氏(以下大津氏):おっしゃるとおりです。昨今、世間では「グローバル化=英語化」ないしは「英語文化化」という風潮があります。そして、それが本当の意味でのグローバル化につながらないということを説く人はいますし、わかっている人はわかっています。しかし、多くの人々はそのことを理解していません。
そうした歪んだグローバル化の受け止め方に対し、文部科学省や大学も、「グローバル化=英語化ではない」ということをしっかり発信する必要があると思います。確かに文科省も大学も「英語化ではない」とは述べていますが、文科省も小学校の外国語活動では、原則として外国語は英語とすると言っていますし、大学ではTOEIC対策講座だらけというのが実情です。
――実際に大学の現場ではどのように対応しているのでしょうか?
大津氏:そうしたグローバル化に対する世間の歪んだ理解に大学側も擦り寄っていると感じます。少子化傾向が進み、大学が生き残るためには、就職率を上げ、それによって受験者数を増やす必要がある。そのためには、社会的なニーズが何であるかを見極め、それに合致するように大学のイメージを作り、その上で卒業生を輩出するという発想になっている。その社会的なニーズのキーワードになっているのが「グローバル化」、「英語化」です。