現状ですと、大学ではTOEFLというよりTOEICが主流で、そのための対策講座が、特に中堅から下の大学では多く設置されています。そうした講座のほとんどを非常勤講師が担当し、中には、講師に、たとえば「担当クラスの受講生の7割が500点を超えないと来年は契約をしない」というノルマを課している大学もあります。そうなると講師は必死で、TOEICのスコアアップのためのテクニックを中心に教える。そういった授業で学生が英語好きになるかといえば、それは望むべくもないですよね。
――2006年から小学校5、6年生でも外国語活動として英語を取り入れています。そして政府案によれば、外国語活動を「格上げ」し、英語の授業を教科化することを視野に入れていると。
大津氏:そもそも外国語の指導でもっとも知識や技術、経験が必要とされるのが入門期の指導です。そうした指導ができる先生を、全国に約2万校ある小学校に配置するのは人員的にも、財政的にも難しいでしょう。
現在、小学校で行われている外国語活動(実態は英語活動ですが)は「コミュニケーション能力の素地」を養うことを目的とした「活動」であって、教科ではありません。中学校以降での教科としての英語教育とは(関連はしているが)質が違うものと位置づけています。したがって、(文科省が配布している「教材」はありますが)教科書もありませんし、数値による評価もありません。この背景には長い、さまざまな議論があるのですが、英語を専門としない担任の先生たちによる涙ぐましい努力によって、何とかここまでやってきたというのが現状です。ここにきての「教科化への『格上げ』」というのは、あまりに唐突です。導入されてからまだ数年しか経っていないのに、しかも、これまでの総括もしないまま、教科化というのはおかしな話です。あれだけ現場を混乱させた上で、「あれは間違っていました。今度は教科にします」というのでは、子どもたちや担任の先生たちに対して、あまりにひどい仕打ちではないでしょうか。
――人員的にも財政的にも全国の数多ある小学校に配置するのが難しいにもかかわらず、どうして教科化を推し進めるのでしょうか?