この現実を前提に、生徒に対し英語学習の目的を誰もが納得するように回答するのは難しいですね。ですからその生徒が将来、英語が必要な仕事に就きたいというビジョンを持っているなら、そういう社会の必要性を見出せばいいですし、中学生の段階で、英語とはまったく関係のない世界で生きていくと決めているならば、異文化理解や日本語とは構造の違った言語を学ぶことで視野が広がると言うしかないかもしれません。
――実際のデータと、街に溢れる英会話スクールの広告、この差はどうして生まれるのでしょうか?
寺沢:これはあらゆる社会現象にも言えることなのですが、興味のない人は顕在化しませんし、逆に興味のある人は顕在化しやすいんです。たとえば、ある物事に興味のある人が少数であっても、その人たちが大きなお金を落とすマーケットが成立すれば、広告も増え、存在感は一定に担保されます。そこで、もしその物事についてアンチの人が一定数存在すれば相殺されますが、そういった人が存在せず、無関心か関心があるかの二分法になるのです。
――無関心の人たちは、「我々は関心がないのだ!」とあえて声を出さないと。
寺沢:そうですね。そういう力学ですね。
――なるほど。ここまで様々な英語に関する通説と実際のデータの違いに気がついたのはどんなことがキッカケだったんですか?
寺沢:本書で中心的に扱っている英語使用や英語学習熱に関しては、一般的に言われるほどではないと、生活者の実感として、またはまわりの研究者や英語教育に関心の高い人に聞いても感じていました。通説と言われるものも必ずしも万人に受けているわけではないのではないかと。
そこでデータを分析すれば、今回のような結果になるのではないかと考えました。しかし反面、文部科学省や英語教育学者の一部、あるいはビジネスリーダーと呼ばれるような人たちは英語が必要だと主張しています。だからこそ、そのようなグローバル人材という言葉を全面に押し出す人たちの通説を覆したという意味が強いと思うんです。
――それでは本書をそうしたビジネスリーダーや政府関係者に読んでもらって、現実を知ってほしいと。
寺沢:知ってほしいと思っているグループは政策関係者と英語教育学者、そして実際に英語を教えている英語教師の方々ですね。