それでは、今年の5月に行われるイギリス総選挙で保守党が勝利して、17年までにイギリスはEUから離脱するのであろうか。その鍵を握るのは、保守党の欧州懐疑的な政策を批判してきた労働党がどの程度の議席を確保できるかであり、また総選挙の後にどのような連立が組まれるかである。
たとえば、保守党と労働党が大連立を組む場合に、もしも労働党の議席数が保守党のそれよりも多ければ、おそらく連立協定で国民投票を次の総選挙まで行わないことを合意することも可能であろう。
あるいは、最も親欧州的な政党である自民党と労働党が連立を組めば、離脱の可能性は遠のく。しかしながら自民党も労働党も支持率が伸び悩んでおり、むしろ支持が増えているのはUKIPやスコットランド国民党(SNP)のような急進的な政党である。もしも、支持を伸ばしたUKIPと議席を減らした保守党とで連立を組むのであれば、イギリスがEUから離脱する可能性はかなりの程度高まることになる。
ヨーロッパに蔓延するポピュリズム政治
イギリスのみならず、EUはいま、深刻な危機に直面している。しかしながら、そのような数々の危機にEUは実効的に対応できないでいる。なぜEUは、深刻な危機を克服できないのか。
現在のヨーロッパでは、各国の指導者がこれまで以上にポピュリズムやナショナリズムを意識せざるを得なくなり、選挙を視野に入れて国内のEU批判の議論に迎合する傾向が強まっている。また、たとえ強靱な政治的意志に基づいて政治指導者が問題解決に取り組もうとしても、それを行うための強固な国内的支持を得ることが困難になっている。民主主義が機能不全を起こしつつある。
ギリシャに代表されるように、自国が抱える問題の深刻さを「苦い薬」(改革)を飲んで自らの努力によって克服することよりも、安易にEUへと責任転嫁することで世論に迎合する政治勢力が支持を広げている。
今年の1月25日に行われたギリシャの総選挙で、極右政党と極左政党が議席を伸ばして、急進左派連合(SYRIZA)と反EUの右派政党「独立ギリシャ人」が連立を組んだ。EUが進める緊縮政策を批判することでこの2つの勢力は政策を一致させたのだ。EU批判で結びついて、極左政党と極右政党の連立が成立するとは、多くの人には驚きの結果であった。
ドイツ国民は、放慢な財政支出を続けて真摯な改革への取り組みをしないギリシャへの追加的な支援や譲歩を嫌っている。他方でギリシャ国民は、ドイツが支配するEUが、ギリシャを「植民地」のように扱って緊縮政策を押しつけることを批判する。いずれも、民主主義に基づいた国民世論であって、ドイツのメルケル首相もギリシャ連立政権のツィプラス首相もそれらを無視することはできない。