2024年4月20日(土)

田部康喜のTV読本

2015年4月22日

 アルジャーノンが照らし出す現代日本の病理はあまりにも重い。それは、家族の問題であり、いったんドロップアウトした若者たちを社会がいかにして、受け入れ行くかの問題でもある。

過酷な運命を担っている登場人物たち

 街に逃げ出したアルジャーノンがなついたのは、知恵遅れの青年である白鳥咲人(山下智久)である。咲人は人を疑うことを知らない。心が美しい青年として描かれている。

 母親の窓花(草刈民代)によって、幼少期から無視されるように育てられて、そのこころの傷は深い。母に愛してもらいたいがために「おりこうになりたい」と願っている。

 咲人は花のデリバリーサービスの会社で働いている。15歳のときに家庭から捨てられるようにして、この会社に入ったことが暗示されている。

 同僚の若者たちは、少年院や刑務所を出所した、それぞれが家庭などに問題を抱えている。

 柳川隆一(窪田正孝)は、離婚して浪費癖からローン地獄に落ちている、母親の暮らしを支えようとして、仲間を相手にいかさま賭博をしたり、株の投資を試みたりしたが、うまくいかない。そのうえ、仲間の資金を預かって、株で損をしたことがばれて、袋叩きにあって重傷を負う。

 野島伸司が監修した脚本は、さまざまな現代日本の問題をからめながら、けっして散漫にならず、またドラマの進展がぎくしゃくしない。過酷な運命を担っている人物と、彼らが直面する問題を丁寧に積み上げていく。

現代社会に適合して生きるとは何なのか

 咲人はこれから、蜂須賀らの研究チームによって、知恵遅れが解決して優れた知能を持つように治療が加えられていく。それは第3回(4月24日)以降のことになる。

 ドラマの導入部で、こどもの手から離れて空に飛び去った黄色い風船が、公衆浴場の煙突に引っかかったシーンがある。煙突のはしごを登って、それを取ろうとする咲人は、誤って手を放し、風船に支えられて街の空を飛んでいく。幻想的なこのシーンは、咲人の未来を暗示しているのだろう。彼はどこに行こうとして、どこにたどり着くのだろう。


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