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メディアから読むロシア

2015年5月1日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター特任助教

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)。『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

進まない宇宙基地建設

 ロシアの巨大プロジェクトに漏れず、動くカネの額が大きくなればそれに群がって不当に利益を得ようとする者の数も多くなる。

 最近の事例では2014年に開催されたソチ・オリンピックが典型で、当初は120億ドルとされていた開催費用は最終的に500億ドルにも膨れ上がり、「史上最も高価なオリンピック」という不名誉な称号を得ることになった。

 今回紹介したヴォストーチュヌィ宇宙基地はカザフスタンから租借しているバイコヌール宇宙基地に代わる新主力宇宙基地としてロシア政府が推進しているもので、建設は2011年に開始された。最終的にヴォストーチュヌィ宇宙基地はロシアが実施する打ち上げのほぼ半分を担う予定で(残りは仏領ギアナのクールー宇宙センターと軍のプレセツク宇宙基地が担当)、特に有人宇宙飛行は完全にヴォストーチュヌィに移管されることになっている。

 ロシア政府としては、カザフスタン政府に支払っている年間1億5000万ドルもの租借費用を節約するとともに、ロシアが外国領土の施設に頼ることなく宇宙にアクセスする能力を獲得する上でヴォストーチュヌィ宇宙基地に大きな期待を掛けているが、これまで述べたような事情で建設は大幅に遅延していた。

 このため、宇宙政策を担当するロゴージン副首相は最近、毎月のように工事現場を訪れては建設の進捗状況を監督し、モスクワのオフィスには24時間態勢で建設現場を監視できるモニターを設けるなどして発破を掛けているが、それでも汚職は一向に改善されていないことは今回紹介した記事からも明らかであろう。

ロシアの抱える汚職という宿痾

 ちなみにTMK社やDSS社の事例に見られるように、巨大公共事業における給与の未払いというのはよくある話である。筆者は2013年に北方領土の択捉島で建設されている新空港の建設現場を訪れたが、ある建設労働者は「実は給料が契約通りに支払われないのでみんなやる気がなくなって手抜き工事が横行しているんだ。連邦政府がどれだけカネを落としてもみんな役人のポケットに入ってしまうんだよ」とこっそり打ち明けてくれた。

 今回のヴォストーチュヌィ宇宙基地の給与未払い問題でも、発覚したのは給与未払いの労働者達がハンガーストライキに打って出たためで、彼らが勇気ある行動をとらなければこのまま闇に葬られていた可能性が高い。

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