2024年4月26日(金)

メディアから読むロシア

2015年5月1日

 しかも、以上で紹介した事例は数千万ルーブル単位の汚職であり、氷山の一角に過ぎない。連邦宇宙局によれば、これまで支出した600億ルーブルもの建設資金のうち400億ルーブルが使途不明になっているとされるほか、下請け会社が予算の前払いを受けながら計画倒産するなど、実際には巨額の国家予算が横領されていると見られる。

 だが、こうした汚職は、政府や大企業高官の「役得」と見られる傾向がロシアでは強い。さらに言えば、プーチン政権自体がこうした「役得」を適度に分配してやることで権力を維持している政権であり、汚職はプーチン大統領の権力の本質とさえ言えるものである。だから、プーチン政権が度々汚職撲滅キャンペーンを打ち上げても、権力構造の問題として汚職はなくならないのだ。

相次ぐ汚職摘発の背景は

 では、ここに来て政府がヴォストーチュヌィ基地の汚職問題を集中的に摘発し始めた理由は何か。ことにDSS社は国防省の必要とする特殊施設建設を請け負う国営会社「スペツストロイ」の極東支社であるから、軍の利権にまで切り込んだことになる。

 ひとつには、「ガス抜き」という側面が考えられるだろう。原油価格の下落や経済制裁によって一般庶民の生活が少しずつ苦しくなる中で、プーチン政権があくまでも民衆の庇護者であることをアピールする、という構図である。

 思えば2009年のリーマンショック以降、ロシア経済が急失速した際にも、プーチン大統領はモスクワのスーパーを視察して「なんでこんなにソーセージが高いんだ」と店長を叱責したり、アルミ王デリパスカ氏の工場で給与未払い騒動が起こっている現場に乗り込んで給与を支払うよう(合意文書にサインするための)ペンを放り投げてデリパスカ氏を恫喝してみせるなどのパフォーマンスを繰り広げた(それでもデリパスカ氏とプーチン大統領の関係が悪化したということはなく、乗り込んでいたテレビカメラを意識したパフォーマンスであったことは明らかである)。

 もうひとつは、ヴォストーチュヌィ宇宙基地の重要性が本当に高まっているということがあるだろう。前述のようにロシアは主力宇宙基地をカザフスタンから租借しており、現状では宇宙に人間を送り込む手段を自前で確保できていない。ソ連崩壊によってカザフスタンが突如「外国」になってしまった結果であるが、ロシアは近年、ソ連時代と同等のインフラを国内に再建することでこうした外国依存を脱しようとしている(ロケットについても大型打ち上げ機プロトン-Mの一部コンポーネントをウクライナに依存していたが、今後は完全国産のアンガラに切り替えるべく発射試験が行われている)。


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